頼めば早いと分かっている仕事を、今日も黙って自分の机に積んでしまった。
家でも同じで、手伝ってと言えば済む家事を、ため息をつきながら1人で片づけている。
誰かに「大丈夫?」と聞かれると、反射的に「大丈夫です」と返してしまう。
そして夜になって、どっと疲れが出る。
この記事は、仕事や家庭で何でも1人で抱え込み、人に頼れないまま疲れている方に向けて書いています。
頼れない理由は、人によって違います。
迷惑をかけたくない人もいれば、断られるのが怖い人もいます。
そもそも、どう頼めばいいのか分からないという人もいます。
この記事では、理由ごとに気持ちをほどく考え方と、明日から使える頼み方の言葉を分けてまとめました。
読み終えたときに、自分がどの理由で止まっているのかが分かり、小さく頼む一言が1つ手元に残っている。
そこをこの記事のゴールにしています。
「人に頼れず自滅しそう」というQ&Aサイトの相談
先日、Q&Aサイトでこのような切実な悩みを拝見しました。
チームのまとめ役が、仕事を黙って引き受け続けていた
投稿者は、職場のチームでいちばん年次が上の方でした。
仕事を割り振られたとき、チームで分担すればいいことは頭では分かっている。
それでも「あの人は今、体調が悪そうだから」「誰もやりたがらない仕事を頼んだら嫌がられそうだ」と考えてしまう。
自分は先輩だから、自分から頼まれたら後輩は断りにくいだろう。
そうなれば後輩の仕事が増え、後輩がつらい思いをするかもしれない。
だったら自分でやったほうがいい。
そんな考えが止まらず、仕事の大半を黙って引き受けていたそうです。
限界を超えて、涙が出るようになった
引き受けた仕事が増え続け、投稿者は自分の手に負える量を超えてしまいました。
仕事中に涙が出るようになったと書かれていました。
後輩からは「何か手伝えることはありますか」という声もなく、仕上げた仕事を見ても「ありがとうございました」の一言もない。
自分が後輩だったころは自分から仕事を取りに行っていたので、何も言わない後輩たちの気持ちが分からない。
だんだん、話しかけること自体がおっくうになってきたそうです。
「変な考え方から抜け出せない」という一文
投稿者自身、自分の考え方が自分を追い込んでいることには気づいていました。
それでも、その考え方から抜け出せない。
どうしたら素直に人を頼れるのか、という問いで相談は結ばれていました。
寄せられた回答には、「仕事を書き出して優先順位をつけ、具体的に頼めばいい」「後輩にとっても任されることは成長の機会になる」といった助言が並んでいました。
どれも正しい助言です。
ただ、相談の文面から伝わってきたのは、頼もうとした瞬間に頭の中で「相手の負担」の想像が止まらなくなる苦しさでした。
やり方の知識は、もう十分に持っている方だと思います。
この記事では、その想像の止め方から順に考えていきます。
人に頼れない人は、珍しくない
「頼れないのは自分の性格の問題だ」と思い込んでいる方は少なくありません。
けれど、国の調査を見ると、相談や頼ることにためらいを感じている人は一定の割合でいます。
国の調査に出ている「相談へのためらい」
内閣府は毎年、孤独や孤立の実態を調べる「人々のつながりに関する基礎調査」を行っています。
令和6年の調査(調査期日は令和6年12月1日、結果の公表は令和7年4月)では、全国の16歳以上の1万871人が回答しました。
その中に「不安や悩みを相談することについて、どのように感じますか」という質問があります。
いくつでも選べる形式で、結果は次のとおりでした。
| 相談することへの感じ方 | 回答した人の割合 |
|---|---|
| 解決しなくとも気持ちが楽になる | 71.3% |
| 解決できる、または解決の手がかりが得られる | 56.5% |
| 相談すると相手の負担になる | 10.5% |
| 相談しても無駄である | 10.0% |
| 相談することが面倒である | 8.6% |
| 相談することが恥ずかしい | 6.1% |
出典は、内閣府孤独・孤立対策推進室「人々のつながりに関する基礎調査(令和6年)」です。
「相手の負担になる」と感じる人は、つらさが強いほど増える
同じ調査で、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人に絞ると、「相談すると相手の負担になる」を選んだ人は25.5%でした。
全体の10.5%と比べると、2倍以上の割合です。
「相談することが恥ずかしい」も、全体では6.1%ですが、同じ人たちでは17.0%に上がっていました。
つまり、しんどい人ほど「頼ったら迷惑だ」と感じやすく、ますます1人で抱え込みやすい。
あなたが今頼れないのは、疲れがたまったときに誰にでも起こりやすい心の動きです。
性格の弱さと結びつけて、自分を責める必要はありません。
それでも、相談した人の7割は「楽になる」と感じている
一方で、同じ調査では71.3%の人が「解決しなくとも気持ちが楽になる」と答えています。
問題そのものが片づかなくても、誰かに話した時点で荷物は少し軽くなる。
頼ることの効き目は、思っているより早く出ます。
不安や悩みの相談相手が「いない」人は8.7%
この調査で、不安や悩みが生じたときの相談相手が「いない」と答えた人は8.7%でした。
困ったときに頼れる人も、相談相手も、どちらもいない人は5.7%です。
裏を返すと、ほとんどの人には、頼れる相手が少なくとも1人はいます。
人に頼れない悩みの多くは、相手がいないことより、相手はいるのに頼みに行けないことのほうにあります。
まずは、自分が止まっている理由を見分ける
人に頼れない理由は、1つの言葉にまとめられがちです。
けれど実際には、止まっている場所が人によって違います。
理由が違えば、ほどき方も変わります。
| 心の中で出てくる言葉 | 止まっている理由 | この記事で扱う場所 |
|---|---|---|
| 「相手も忙しいのに悪い」 | 迷惑をかけたくない | 理由1 |
| 「嫌な顔をされたらどうしよう」 | 断られるのが怖い | 理由2 |
| 「何をどう言えばいいか分からない」 | 頼み方が分からない | 理由3 |
| 「説明するより自分でやったほうが早い」 | 任せるのが不安 | 理由4 |
| 「できない人だと思われたくない」 | 弱みを見せたくない | 理由5 |
| 「頼ったら借りができる」 | 貸し借りが気になる | 理由6 |
当てはまる行が1つとは限りません。
いちばん強く出てくる言葉を1つ選んでから、該当する理由を読んでみてください。
理由1 迷惑をかけたくない
人に頼れない理由として、もっともよく聞くのがこの気持ちです。
「迷惑」の大きさを、自分だけで見積もっている
頼もうとすると、相手の忙しさや疲れ具合が次々に頭に浮かびます。
あの人は今週締め切りがある。
この人は家に小さい子どもがいる。
そうやって相手の事情を想像するうちに、頼みごとの重さが実際の何倍にもふくらんでいきます。
けれど、その重さを決めているのは、まだ何も聞いていないあなたの想像です。
相手が引き受けられるかどうかは、相手にしか分かりません。
頼まれた側は、意外と負担に感じていない
自分が頼まれる側だったときのことを思い出してみてください。
同僚から「この資料、5分だけ見てもらえますか」と言われて、迷惑だと感じたでしょうか。
多くの場合、少し手を止めて見ればいいだけの話だったはずです。
むしろ、頼りにされたことが少しうれしかった、という記憶がある方もいると思います。
自分が頼む側に回ったとたん、同じ5分を大きな迷惑のように感じてしまう。
ここに、頼れない人の見積もりのずれがあります。
黙って抱え込むほうが、あとで大きな迷惑になる
相談者のように、仕事を黙って引き受け続けると、いつか限界が来ます。
体調を崩して休むことになれば、周りは準備のないまま仕事を引き継ぐことになります。
早めに少しずつ頼んでいれば、相手の負担は小さく分けられました。
迷惑をかけたくない人ほど、早めに小さく頼むほうが結果的に周りにやさしい、と覚えておいてください。
理由2 断られるのが怖い
頼みごとをして断られると、自分そのものを否定されたように感じてしまう人がいます。
断られたのは「頼みごと」で、あなたではない
相手が断る理由のほとんどは、時間が取れない、ほかの用事がある、といった相手側の事情です。
あなたの人柄や価値とは関係がありません。
それでも断られた瞬間は、胸がきゅっと縮むような感覚が出るものです。
その感覚が来たら、「今回は相手の都合が合わなかった」と、頭の中で言葉にして置き直してみてください。
過去に一度、嫌な思いをした人ほど慎重になる
子どものころに親に甘えて突き放された。
職場で質問したら、ため息をつかれた。
そうした経験が1回でもあると、人は同じ場面を避けるようになります。
慎重になるのは、自分を守るための自然な反応です。
ただ、その1回の相手と、今あなたの前にいる相手は別の人です。
断られても関係が壊れない頼み方がある
断られるのが怖いなら、相手が断りやすい形で頼むのが効きます。
「無理なら全然大丈夫なんだけど」と一言添えるだけで、相手は気軽に答えられます。
断りやすい頼み方のほうが、かえって引き受けてもらえることも多いものです。
具体的な言い方は、後半の章でまとめています。
理由3 頼み方が分からない
頼る経験が少ないまま大人になると、頼み方そのものが分からなくなります。
「何を」「いつまでに」が決まっていないと、言葉にならない
「ちょっと手伝ってほしい」と言いかけて、何を手伝ってほしいのか自分でも説明できない。
そんなときは、頼む前に頭の中が整理されていないことが原因です。
頼みごとは、何を、いつまでに、どのくらい、の3つが決まると一気に口に出しやすくなります。
全部を頼もうとすると、重くなる
頼み方が分からない人は、頼むなら全部を渡さなければいけないと考えがちです。
けれど、頼みごとは小さく切ってかまいません。
資料作り全体を頼む必要はなく、「表の数字の確認だけ」をお願いすればいい。
小さく切った頼みごとは、言う側にとっても聞く側にとっても軽くなります。
頼む相手を、先に1人決めておく
頼み方が分からない人は、誰に頼めばいいのかでも迷っています。
職場なら、話しかけやすい同僚を1人。
家庭なら、パートナーか親のどちらか1人。
最初に頼む相手を決めておくだけで、困ったときに頭の中で探し回る時間が減ります。
理由4 自分でやったほうが早いと思ってしまう
仕事ができる人ほど、この理由で止まりやすくなります。
1回目は確かに、自分でやったほうが早い
人に仕事を渡すには、説明する時間がかかります。
渡した仕事の仕上がりを確かめる時間も要ります。
1回だけで比べれば、自分で片づけたほうが早いのは事実です。
2回目からは、任せたほうが早くなる
ところが、同じ種類の仕事が毎週来るなら話が変わります。
1回目に説明しておけば、2回目からは相手が自分で進められるようになります。
自分でやり続ける限り、その仕事はずっと自分の机に残ります。
相談者のチームで後輩から手伝いの声が出なかったのも、仕事が渡ってこない状態が続いて、何を手伝えばいいのか見えなかったからかもしれません。
仕上がりの違いを、どこまで許すか決めておく
任せると、自分とは違うやり方で仕上がってくることがあります。
そのたびに直していると、結局自分でやるのと変わらなくなります。
あらかじめ「ここだけは守ってほしい」という点を1つか2つに絞って伝え、それ以外は相手のやり方に任せる。
そう決めておくと、任せたあとの気持ちが楽になります。
理由5 弱みを見せたくない
「頼る」ことが「できない」と同じ意味に感じられて、口が重くなる人もいます。
しっかり者の役を、長く続けてきた
長子として下の兄弟の面倒を見てきた。
職場で「あの人に任せておけば安心」と言われてきた。
そういう人は、周りからの期待に応えるうちに、頼られる側の役が身についています。
役を降りるのが怖いのは、これまでの自分を否定するように感じるからです。
頼れる人は、頼るのもうまい
周りを見渡すと、信頼されている人ほど、困ったときには早めに声をかけています。
「ここは詳しくないので教えてください」と言える人は、かえって安心感を与えます。
何でも1人でこなす人より、自分の手に負えない部分を早めに伝えてくれる人のほうが、一緒に働きやすいからです。
弱音と、相談は分けて考えていい
弱みを見せるのが苦手なら、気持ちの弱音から始めなくて構いません。
「この件で意見を聞かせてほしい」という相談の形なら、口に出しやすくなります。
相談で人と話す回数が増えると、少しずつ気持ちの話もしやすくなっていきます。
理由6 頼ったら借りができる気がする
人に何かしてもらうと、同じだけ返さなければ落ち着かない人がいます。
貸し借りの帳簿を、自分だけがつけている
してもらったら、すぐに何かで返さなければいけない。
返せないうちは、次の頼みごとはできない。
そう考える人は、頭の中で細かい帳簿をつけています。
けれど、相手のほうはそこまで細かく覚えていないことがほとんどです。
返すのは、同じ相手でなくてもいい
助けてもらった分は、いつか別の場面で、別の誰かを助けることで返しても構いません。
職場なら、後輩に教えてもらったことを、次に入ってきた人に教える。
人の間の助け合いは、1対1の取引より、ゆるい輪のように回っています。
「ありがとう」も、立派なお返しになる
頼んだあとに、何がどう助かったのかを具体的に伝える。
それだけで、相手は「役に立てた」と感じられます。
お礼の言葉は、品物と同じくらい相手に届きます。
頼れない気持ちの、もとにあるもの
ここまで理由を6つに分けて見てきました。
どの理由にも、もう少し深いところで共通するものがあります。
「迷惑をかけない子」でいることを、ほめられてきた
手のかからない子、聞き分けのいい子、と言われて育った人は少なくありません。
1人でできたことをほめられる経験が重なると、頼らないことが自分の価値のように感じられてきます。
大人になってからも、その感覚は静かに残っています。
周りに頼れる大人がいなかった
家の中で、親が忙しかったり、体調を崩していたりして、甘えられる相手がいなかった人もいます。
そういう環境では、自分で何とかするしかありません。
1人で乗り切る力は、そのとき身につけた大切な力です。
ただ、今の暮らしでは、その力だけでは回らない量の荷物を抱えているのかもしれません。
疲れているときほど、頼る力は落ちる
忙しさや睡眠不足が続くと、人は先の見通しを悪く見積もりやすくなります。
「頼んでも断られるに決まっている」「迷惑に思われるに決まっている」という考えが強くなるのは、多くの場合、疲れのせいでもあります。
頼れないと感じる日が続いているなら、まず自分がどれだけ疲れているかに目を向けてみてください。
頼れないまま、ついやってしまうこと
頼れない状態が続くと、人は別の形で気持ちを逃がそうとします。
どれも自然な反応ですが、続けると自分も周りもつらくなります。
「察してほしい」と待ち続ける
忙しそうにしていれば、誰かが気づいて手を貸してくれるはず。
そう待っていても、周りは「あの人は大丈夫そうだ」と受け取っていることがよくあります。
言葉にしない限り、困っていることはほとんど伝わりません。
ためこんだ末に、一度に怒りが出る
1人で抱え込んでいると、手伝ってくれない周りへの不満が少しずつたまります。
ある日、小さなきっかけでそれが一気にあふれ、強い言い方をしてしまう。
周りからすると突然のことなので、話し合いがこじれやすくなります。
頼む前に、自分で全部片づけてしまう
頼もうか迷っているうちに、自分で手を動かして終わらせてしまう。
その繰り返しで、周りは「あの人は1人でできる」と覚えていきます。
頼めない状況を、知らないうちに自分で固めてしまうのです。
| ついやってしまうこと | 周りからの見え方 | 置き換えの例 |
|---|---|---|
| 忙しそうにして察してもらうのを待つ | 「余裕がありそう」 | 「今週は手が回らない」と一言だけ伝える |
| 不満をためて一度にぶつける | 「急に怒り出した」 | 小さいうちに「ここだけ頼める?」と聞く |
| 迷っているうちに自分で終わらせる | 「1人でできる人」 | 迷ったら手を動かす前に5分だけ頼む相手を探す |
| 「大丈夫です」と反射的に答える | 「本当に大丈夫なんだ」 | 「実は少し困っていて」と言い直す |
| 夜遅くまで残って片づける | 「仕事が好きな人」 | 退勤時間を先に決め、残りを相談する |
頼るのが苦手な人のための、頼み方の型
頼み方には、ある程度決まった型があります。
型があると、その場で言葉を探さずに済むので、口に出すまでの迷いが減ります。
型1 状況を一言、頼みごとを一言
「今週、締め切りが2つ重なっていて」と状況を伝える。
続けて「この集計だけお願いできますか」と頼みごとを伝える。
状況と頼みごとを、それぞれ1文ずつにまとめるのが基本の形です。
長い前置きや謝罪を重ねると、相手はかえって身構えてしまいます。
型2 何を、いつまでに、どのくらい
頼みごとは、中身と期限と量が分かると、相手が引き受けるかどうかを判断しやすくなります。
「来週の水曜までに、このリストの30件だけ確認してほしい」と言えば、相手は自分の予定と照らし合わせて答えられます。
「手が空いたら、ちょっと見ておいて」では、相手も答えに困ります。
型3 断る道を、先に用意しておく
「難しければ遠慮なく言ってね」と添える。
この一言で、相手は気軽に断れるようになり、あなたも断られたときの痛みが小さくなります。
引き受けてもらえたときも、相手が自分で選んだという感覚が残るので、気持ちよく動いてもらえます。
型4 終わったら、何が助かったかを伝える
「ありがとう」だけで終わらせず、「おかげで今日は早く帰れた」と、助かった中身を一言添えます。
相手は、自分の手伝いがどう役に立ったのかが分かると、次も声をかけやすくなります。
頼む、助けてもらう、お礼を伝える、という一回りが、次の頼みごとを軽くしていきます。
| 型 | 言い方の例 | 効き目 |
|---|---|---|
| 状況と頼みごとを1文ずつ | 「締め切りが重なっていて、この集計だけお願いできますか」 | 前置きが短くなり、口に出しやすい |
| 何を、いつまでに、どのくらい | 「水曜までに、30件だけ確認してほしい」 | 相手が引き受けるか判断しやすい |
| 断る道を用意する | 「難しければ遠慮なく言ってね」 | 断られても傷つきにくい |
| 助かった中身を伝える | 「おかげで今日は早く帰れた」 | 次に頼むときの心理的な壁が下がる |
職場で頼るときの言い方
職場は、頼れない悩みがもっとも出やすい場所です。
相手との立場によって、言い方を少し変えると伝わりやすくなります。
後輩や部下に頼むとき
相談者のように、先輩の立場だと「断れない頼みごとをしてしまう」と考えがちです。
それなら、断ってもいい頼み方にすればいいのです。
「この作業、手が空いていたらお願いしたいんだけど、今の仕事の状況はどう?」と、まず相手の状況を聞く形から入ります。
そのうえで、仕事を任せる理由も一言添えます。
「この作業は、次の担当になったときに役に立つから」と伝えれば、後輩はその仕事を、覚えておくと得をする仕事として受け取りやすくなります。
後輩が自分から手伝いを申し出ないのは、気が利かないからとは限りません。
先輩が忙しそうにしていると、何を手伝えばいいのか分からず、声をかけにくいものです。
先輩の側から仕事の切り分けを見せることで、後輩も動きやすくなります。
上司に頼むとき
上司に頼るのは、仕事量の相談として切り出すと話しやすくなります。
「今の担当がこれだけあって、今週中にすべて終わらせるのが難しい状況です」と、抱えている量を見える形で伝えます。
続けて「どれを優先すべきか相談させてください」と聞けば、上司は判断の材料を受け取れます。
上司にとって、部下が限界まで黙っているより、早めに量の相談をしてもらえるほうが助かります。
同僚に頼むとき
同僚には、お互いさまの形で頼むと気持ちが楽になります。
「この部分を見てもらえたら、代わりに来週の準備は引き受けるよ」と、自分にできることを添えて伝えます。
貸し借りが気になる理由6の人にも、使いやすい頼み方です。
家庭で頼るときの言い方
家庭では、相手が身近なぶん、頼まなくても分かってほしいという気持ちが強くなります。
ただ、言葉にしなければ伝わらないのは、職場と同じです。
パートナーに頼むとき
家事を1人で抱えている場合、「たまには手伝ってよ」という言い方は、相手に責められているように聞こえがちです。
「夕食の後片づけを、火曜と木曜だけお願いできる?」と、具体的な家事と曜日で頼みます。
家事の分担は、一度に大きく変えようとすると話がこじれます。
まずは1つの家事、週に2日、といった小さな単位から始めると、相手も受け入れやすくなります。
親やきょうだいに頼むとき
大人になってから親に頼るのは、気恥ずかしさが先に立つものです。
「急ぎの用事が入ったから、土曜の午前だけ子どもを見てもらえないかな」と、用件と時間を区切って伝えます。
時間がはっきりしていると、親の側も予定を立てやすくなります。
関係が近いほど、遠慮のない言い方になりやすいので、終わったあとのお礼は意識して伝えてください。
子どもに頼むとき
子どもに家のことを頼むのに、ためらいを感じる親もいます。
けれど、子どもにとって家の仕事を任されることは、家族の一員として認められる経験にもなります。
「洗濯物をたたむのを手伝ってくれると、お母さんすごく助かる」と、助かる気持ちを素直に伝えてみてください。
友人に頼るときの言い方
友人に悩みを打ち明けるのは、仕事の頼みごとより難しいと感じる人も多いでしょう。
いきなり深い話をしなくていい
「最近ちょっと疲れていて」と、軽い一言から始めて構いません。
相手が「どうしたの」と聞いてくれたら、話せる範囲で少しずつ話します。
最初から全部を話そうとすると、言葉に詰まって何も言えなくなります。
「聞いてほしいだけ」と先に伝える
悩みを話すと、相手は解決策を考えようとしてくれます。
助言がほしいわけではない日は、「アドバイスはいらなくて、ただ聞いてほしい」と最初に伝えておきます。
そうすると、相手も構えずに聞くことができます。
内閣府の調査で、相談すると「解決しなくとも気持ちが楽になる」と答えた人が71.3%いたのは、この聞いてもらう効き目を表しています。
連絡の手段を選ぶ
顔を合わせて話すのが難しければ、メッセージで送っても構いません。
「今度、少し話を聞いてもらえる?」と送るだけでも、頼る第一歩になります。
文字なら、自分のペースで言葉を選べるので、頼るのが苦手な人には始めやすい方法です。
小さく頼む練習を、段階的に重ねる
頼み方の型が分かっても、いきなり大きな頼みごとをするのは難しいものです。
負担の小さいところから順に、頼る回数を増やしていきます。
段階1 物や情報を借りる
「そのペン、貸してもらえますか」「この資料、どこにあるか知っていますか」。
断られる心配がほとんどない、小さな頼みごとから始めます。
頼んで、応じてもらって、お礼を言う。
この流れを体で覚えるのが、最初の段階です。
段階2 数分で済む作業を頼む
「この文章、誤字がないか2分だけ見てもらえますか」と、短い時間で終わる作業を頼みます。
相手の負担が小さいことが自分でも分かっているので、口に出しやすい頼みごとです。
段階3 仕事や家事の一部を任せる
慣れてきたら、繰り返し発生する仕事や家事の一部を、まとめて任せてみます。
ここで先ほどの型2「何を、いつまでに、どのくらい」が役に立ちます。
段階4 気持ちを聞いてもらう
最後が、困っていることや気持ちを打ち明ける段階です。
作業を頼むことに慣れると、人と頼り頼られる関係の手ざわりが少しずつ分かってきます。
その手ざわりがあると、気持ちの話も切り出しやすくなります。
| 段階 | 頼みごとの例 | 相手の負担 |
|---|---|---|
| 段階1 | 物を借りる、場所を聞く | ほとんどない |
| 段階2 | 数分で済む確認を頼む | 小さい |
| 段階3 | 仕事や家事の一部を任せる | 中くらい |
| 段階4 | 困りごとや気持ちを聞いてもらう | 相手との関係による |
1人で抱え込みすぎているサイン
頼れない状態が長く続くと、心と体に疲れが出てきます。
次のようなサインがあれば、頼ることを先延ばしにしないでください。
心に出るサイン
以前は楽しめていたことが、楽しく感じられない。
ちょっとしたことで涙が出たり、いらいらしたりする。
相談者のように、仕事中に涙が出るようになったのは、心が限界に近いことを知らせるサインです。
体に出るサイン
寝つけない、夜中に何度も目が覚める。
食欲が落ちた、逆に食べすぎてしまう。
休みの日も疲れが抜けない。
こうした状態が2週間以上続いているなら、医療機関に相談することも考えてください。
頼れる人が身近にいないときの相談先
身近な人に頼るのがどうしても難しい時期もあります。
そんなときは、話を聞くことを仕事にしている公的な窓口を使って構いません。
こころの健康相談統一ダイヤル
厚生労働省が案内している電話相談で、0570-064-556にかけると、お住まいの都道府県や政令指定都市の相談窓口につながります。
受付の時間は地域によって違うので、かける前に確かめておくと安心です。
働く人のための相談窓口
厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、働く人や家族向けの電話相談やメール相談が案内されています。
職場の悩みを社外の人に話したいときに使えます。
お住まいの市区町村と保健所
市区町村の保健センターや保健所でも、心の健康に関する相談を受け付けています。
窓口は自治体によって名前が違うので、市区町村の公式サイトで「こころの相談」と調べると見つかりやすいです。
よくある質問
Q1. 人に頼れないのは、甘えられずに育ったせいですか
育った環境が影響していることはあります。
ただ、原因を1つに決める必要はありません。
大人になってからの職場の役割や、今の疲れも関係しています。
原因探しより、今日どんな小さな頼みごとができるかを考えるほうが、早く楽になれます。
Q2. 頼んだのに断られて、もう頼めなくなりました
断られた経験は、しばらく心に残るものです。
その相手には少し時間を置き、別の人に、もっと小さな頼みごとをしてみてください。
段階1の「物を借りる」くらいの頼みごとで、応じてもらえる経験を取り戻していきます。
Q3. 頼ると、相手に借りができるようで落ち着きません
お返しは、同じ相手に、すぐでなくても構いません。
助かった中身を具体的に伝えるお礼も、立派なお返しです。
いつか別の誰かを助けることで、助け合いの輪に返していけば十分です。
Q4. チームのまとめ役なので、自分が頼るわけにはいきません
まとめ役の仕事は、全部を自分でこなすことより、仕事をうまく分けることにあります。
まとめ役が仕事を抱え込むと、チームの誰も仕事の全体を知らない状態になり、かえって危うくなります。
後輩に仕事を任せることは、後輩が育つ機会にもなります。
Q5. 人に頼ろうとすると、動悸がしたり涙が出たりします
頼もうとするだけで体に強い反応が出るなら、それだけ長く1人で頑張ってきたということです。
無理に人に頼む練習をする前に、休息を取ってください。
つらさが続く場合は、医療機関や、先ほどの公的な相談窓口に話してみてください。
まとめ
人に頼れない理由は、人によって違います。
迷惑をかけたくない人は、迷惑の大きさを自分だけで見積もっています。
断られるのが怖い人は、断られたのが頼みごとであって自分自身でないことを思い出してください。
頼み方が分からない人は、何を、いつまでに、どのくらい、を決めてから口に出すと楽になります。
国の調査でも、相談すると「解決しなくとも気持ちが楽になる」と答えた人は7割を超えていました。
頼ることは、自分の荷物を少し軽くするだけでなく、相手が役に立てる場面を作ることでもあります。
1人で抱えてきた荷物を、小さく切って、少しずつ周りに渡していきましょう。
今日からできること
最後に、今日からできることを表にまとめます。
| やること | やり方 | 期待できること |
|---|---|---|
| 止まっている理由を選ぶ | 6つの理由から、いちばん近いものを1つ選ぶ | 自分に合ったほどき方が分かる |
| 抱えている仕事を書き出す | 仕事や家事を紙に全部書き出す | 渡せる部分が見えてくる |
| 頼みごとを小さく切る | 書き出したものから、数分で済む部分を1つ選ぶ | 口に出しやすい頼みごとができる |
| 一言を準備する | 状況を1文、頼みごとを1文で書いておく | その場で言葉を探さずに済む |
| 断る道を添える | 「難しければ遠慮なく」と付け足す | 断られても傷つきにくい |
| 窓口を控えておく | 統一ダイヤルの番号をメモしておく | いざというときに迷わずに済む |
今日は、抱えている仕事を書き出して、数分で済む頼みごとを1つだけ選んでみてください。
明日それを1回頼めたら、次はもう少し大きな頼みごとに進めばいいのです。
頼り方を少しずつ身につけたいときに
人に頼ることや、気持ちの伝え方は、本で考え方の型を知っておくと、自分の場面に当てはめやすくなります。気になるものから探してみてください。
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