I. はじめに:中国から会社をたたむ時の従業員トラブル、どうすればいいの?(2025年版)
2025年、中国から日本の会社がお店や工場をたたむ(事業撤退する)のは、なんだか昔よりずっと大変そうです。新しい法律ができたり、経済の先行きが読みにくかったり、もともと中国の働き方ルールが複雑だったりするからです。例えば、従業員が何歳まで働けるかというルールが変わったりします。こんな状況で、従業員との間でゴタゴタ(労務リスク)が起きないように、スムーズに会社をたたむには、今まで以上にしっかり準備して、新しい法律を守り(特に2025年に変わる点!)、従業員には隠し事なく話し合い、そして従業員の権利をものすごく大切に扱う必要があります。この解説では、そんな難しい状況に対応するための、わかりやすい方法と具体的なステップをお伝えします。経済の向かい風やコロコロ変わるルールが、会社をたたむ時にどんな影響を与えるのかも考えながら、会社がぶつかるかもしれない大きな従業員トラブルと、それをどうやって軽くするかを詳しく説明します。
II. 会社の周りの状況変化:2025年の中国の法律とお金の事情
A. 2025年の主な法律の変更点:何歳まで働く?会社のルール、働き方のルール
2025年に中国から会社をたたむことを考えているなら、いくつかの大事な法律の変更が、従業員のこと(労務管理)に直接かかわってきます。これらの変更をちゃんと理解して、うまく対応することが絶対に必要です。
1. 何歳まで働ける?ルールが少しずつ変わります(2025年1月1日から)
2025年1月1日から、中国で従業員が何歳まで働けるか(法定退職年齢)というルールが、少しずつ引き上げられます。最終的には、男性は63歳、女性の普通の仕事の人は55歳、女性の管理職の人は58歳まで働くことになる予定で、15年かけてゆっくり変わっていきます。具体的には、男性は4ヶ月ごとに1ヶ月ずつ、女性の普通の仕事の人は2ヶ月ごとに1ヶ月ずつ、女性の管理職の人は4ヶ月ごとに1ヶ月ずつ、働ける年齢が上がっていきます。
この変更は、従業員がどれくらい長く会社にいたか、会社を辞める時にもらうお金(経済補償金)をどう計算するか、特に新しい「働ける年齢」に近くなっている従業員をどう扱うかに影響します。会社は、従業員の誕生日によって違う「働ける年齢」を管理しないといけなくなるので、会社の働き方のルール(人事制度)を見直す必要があります。面白いのは、従業員が年金をもらうために最低限必要な期間、お金を払っていれば、一番長くて3年まで、しかも今までの「働ける年齢」より下にならない範囲で、早めに会社を辞めることも選べるようになる点です。この場合、会社との働き方の約束(労働契約)は終わりになり、会社は辞める時のお金(経済補償金)を払わなくてもよくなると考えられています。逆に、会社と従業員がOKなら、一番長くて3年まで、会社を辞めるのを遅らせることもできます。
この「働ける年齢」のルールの変更は、特に2025年に会社をたたむ会社にとっては、従業員のメンバー構成や辞める時のお金の計算を、新しく、そして複雑にします。従業員一人ひとりの今の状況をちゃんと調べて、新しいルールに合わせた対応を計画する必要があります。
2. 会社のルールの変更(2024年7月1日から、2025年にも影響)
2024年7月1日に会社のルールに関する法律(会社法)が変わりましたが、その影響は2025年に会社をたたむ時にも関係してきます。特に大事なのは、従業員が300人より多い会社は、従業員の代表を会社の偉い人の一人(従業員代表董事)にしないといけなくなった点です。この従業員の代表は、従業員の話し合いなどで民主的に選ばれることになっていて、会社をたたむ時の社内での話し合いや従業員との交渉で、新しいキーパーソンになるかもしれません。会社をたたむ計画がちゃんとしているか説明したり、辞める時の条件を決めたりする時に、この従業員の代表とうまくやっていくことが大事になるでしょう。
3. 年金をもらうために最低限必要な期間の変更
「働ける年齢」のルールが変わるのと関連して、毎月年金(基本養老金)をもらうために最低限お金を払わないといけない期間も、今の15年から20年へと少しずつ引き上げられることが決まっています(2030年1月1日から少しずつ変わります)。2025年に会社をたたむ時には直接大きな影響はないかもしれませんが、これは中国の政府が年金の仕組みを長持ちさせたいと考えていることの表れで、会社をたたむ時に社会保険料をちゃんと精算しているかということについて、役所の目が間接的に厳しくなるかもしれないことを示しています。
4. その他の働き方のルールの動き
中国では法律やルールがよく変わるので、外国の会社はいつも最新情報をチェックする必要があります。2025年に向けて、これまで説明した以外にも、細かい働き方のルールが変わるかもしれないことも頭に入れておき、専門家を通じて最新の動きをずっと調べておくことが大切です。
これらの法律の変更は、一つ一つバラバラにあるのではなく、お互いに関係していて、会社の人や働き方の管理に色々な影響を与えます。例えば、「働ける年齢」が上がるということは、従業員一人ひとりが会社を辞める時期が違うということになり、会社をたたむ時に人を減らす場合のお金の計算や、誰に辞めてもらうかを選ぶ時に、もっと一人ひとりに合わせたやり方が必要になります。特に、新しくなる「働ける年齢」と今までの「働ける年齢」の間にいる従業員は、期待することや交渉の仕方が今までと違うかもしれません。また、従業員が300人より多い会社では、新しくできる従業員の代表が、会社をたたむ時の交渉で従業員の意見をまとめたり、会社側と大事な話し合いの窓口になったり、あるいは対立する相手になったりする可能性も考えないといけません。
表1:2025年の中国から会社をたたむ時に影響する主な法律のルールの変更点のまとめ
法律のルールの変更 | 詳しい内容 | 会社をたたむ時の影響(かもしれないこと) |
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1. 何歳まで働ける?ルールが少しずつ変わります (2025年1月1日から) | 男性は63歳、女性の普通の仕事の人は55歳・女性の管理職の人は58歳まで、15年かけて少しずつ働く年齢が上がります。いつからどれくらい上がるかは誕生日によって違います。 | 年を取った従業員の辞める時のお金の計算や、会社の人の計画に影響します。早めに辞めたり、遅らせて辞めたりすることも選べるので、会社が払うお金が変わるかもしれません。 |
2. 会社のルールの変更 (2024年7月1日から) | 従業員が300人より多い会社は、従業員の代表を会社の偉い人の一人にしないといけません。その他、会社のお金や経営のやり方に関する変更も、会社をたたむ時の決め方や偉い人の責任に影響するかもしれません。 | 大きな会社で会社をたたむ時の話し合いの仕方が変わったり、物事を決めるのが複雑になったり、会社をきれいにする時の偉い人の責任に影響するかもしれません。 |
3. 年金をもらうために最低限必要な期間の変更 | 今の15年から20年へ少しずつ引き上げられます(2030年1月1日から少しずつ変わります)。 | 2025年に会社をたたむ時には直接大きな影響は少ないかもしれませんが、年金の仕組みへの関心が高まっていることを示していて、社会保険をちゃんと払っているかということへの間接的な影響があるかもしれません。 |
4. 外国人が働くための許可のルールの変更 | 外国人が働くための許可証(工作許可証)がなくなって、他のものと一緒になる予定です。 | 外国から来た従業員を雇う時の手続きが変わります。会社をたたむ時に外国から来た従業員をどうするかに影響するかもしれません。 |
B. お金の流れ:アメリカと中国のケンカ、国内のプレッシャー、分野ごとの課題への対応
2025年の中国の経済は、アメリカと中国の貿易でのケンカが続いたり、中国国内の経済がゆっくりになったり、特定の産業分野で特別な問題があったりと、いくつかの理由で複雑な感じになりそうです。これらのお金の動きは、中国から会社をたたむことを考えている日本の会社にとって、無視できない影響があります。
アメリカと中国の貿易でのケンカは、日本の会社が中国でビジネスをする上で、今も大きな心配事です。両方の国がお互いの輸入品にかける高い税金は、特に中国で作ってアメリカに売っている会社にとっては、コストが上がって競争力が下がることに直接つながります。この影響で、部品の調達先(サプライチェーン)を見直す動きが早まっていて、一部の会社にとっては会社をたたむ理由の一つになるかもしれません。さらに、貿易でのケンカは、中国政府が外国の会社へのルールを厳しくするかもしれないとも言われていて、ビジネスの先行きが読みにくくなっています。
中国国内の経済に目を向けると、経済の成長がゆっくりになったり、国内での消費があまり伸びなかったりすることが心配されています。2025年の最初の3ヶ月の経済成長率は5.4%と報告されましたが、税金の影響などでこれからの成長がゆっくりになると予想されていて、ある銀行は2025年の成長予測を3.4%に下げたという情報もあります。このような状況は、中国国内向けに商売をしている会社の売上にも影響を与え、特に小売業やサービス業では、お客さんの買う力が弱くなって需要が減るリスクが考えられます。
ハイテク産業は、アメリカからの制裁や技術を切り離す動きによって、特に厳しい状況になっています。電気自動車やバッテリーなど、特定の中国のハイテク製品に対するアメリカの高い税金は、これらの会社がアメリカ市場で成長するのを邪魔しています。
これらのお金の状況は、働く場所(雇用)にも大きな影響を与えます。輸出している会社の経営が苦しくなると、工場を閉めたり、仕事を失う人が増えたりします。アメリカへの輸出に関係する仕事をしている人は1000万人から2000万人にのぼるとも言われています。ある会社のデータによると、2025年の初めの求人の数は、前の年と比べて約30%減っていて、働く場所が少なくなっているのがはっきりわかります。このような働く場所への不安は、会社をたたむ時の従業員の気持ちに大きく影響し、従業員との話し合いをより難しくするかもしれません。
経済がゆっくりになって働く場所への不安が広がると、従業員はクビになることに対してより強く抵抗し、より高い金額の辞める時のお金(経済補償金)を求める傾向が強まることが予想されます。働く場所が少なくなっている状況では、従業員にとって仕事を失うことは生活への大きな脅威となり、今の会社からできるだけたくさんのお金をもらおうとする気持ちが高まるからです。会社は、このような従業員の気持ちを理解し、法律で決められた基準より多いお金を払ったり、もっと丁寧な話し合いのプロセスを覚悟したりする必要があるかもしれません。
また、経済が苦しくて失業率が上がっている地方の政府は、社会が不安定になるのを避けるために、たくさんの人を減らす会社をたたむことに対して、より慎重な態度をとる可能性があります。会社のたたむ計画をOKするプロセスで、従業員に手厚い対応を求めたり、会社をたたむ時期を調整するように言ったりするなど、間接的なプレッシャーをかけてくることも考えられます。これは、会社をたたむスケジュールや費用に影響を与える要因となり得ます。
C. ルールの先行き不透明感:外国の会社への影響と会社をたたむ計画
中国の法律やルールがよく変わるのは、外国の会社にとって長年の課題です。特に、外国の会社に対するルールが厳しくなったり、会社の技術やアイデア(知的財産権)が十分に守られなかったりすることが問題になることがあります。2025年に会社をたたむことを計画している会社は、このようなルールの環境が先行き不透明なことを十分に考えておく必要があります。
貿易戦争など国と国の間の緊張が高まると、中国政府が外国の会社に対する法律やルールを厳しくするかもしれないとも言われています。これは、新しいルールを守るための費用がかかったり、ビジネスを自由にやりにくくなったりするかもしれません。また、中国から会社をたたむには許可が必要で、地元の政府や税金の役所が反対することで手続きが複雑になり、時間や費用がすごく増える可能性があります。事前に知らせることなく法律や政策が変わることさえあり、県や市ごとに法律や役所の手続きの解釈ややり方が違う場合もあるので、会社はいつも最新情報を調べて、ちゃんと対応することが求められます。
さらに、「外国からの制裁に反対する法律」(反外国制裁法)のような法律があることは、直接働き方のルールではありませんが、国と国の対立に巻き込まれた会社にとっては、新しいルールを守るリスクやビジネス運営の複雑さをもたらします。これらの法律がどのように使われるかよくわからないことは、会社をたたむことを決める時やそのプロセスに影響を与えるかもしれません。
このようなルールの先行き不透明感は、会社をたたむ計画に大きな柔軟性と十分な準備期間(時間的にも費用的にも)を入れておく必要があることを意味します。法律やルールが予告なく変わったり、地域ごとに違う解釈がされたりする可能性があるので、一つの決まったやり方の会社をたたむ計画では対応しきれません。最新の地域ごとの実際のやり方に詳しい現地の専門家を使うことが、単なるアドバイスをもらうことを超えて、会社をたたむプロセスを成功させるための絶対に必要な条件となります。これは、法律の専門家を持つというだけでなく、現地の役所の実際の仕事に深く通じている専門家と一緒にやることを意味します。
III. 会社をたたむ時の従業員トラブル:何が起きて、何が起きそうか
会社をたたむことに伴う従業員とのトラブルは、色々な原因で起こる可能性があります。特に、辞める時にもらうお金(経済補償金)、従業員を辞めさせること(従業員解雇)、まだ払われていない給料や社会保険料の問題は、トラブルの火種になりやすいです。
A. 辞める時のお金(経済補償金):法律で決まっていること、計算の複雑さ(3倍ルール、12年ルールも含む)、そして「N+X」交渉の実際
中国から会社をたたむ時、従業員に辞める時のお金(経済補償金)を払うことは、避けて通れない大事な問題です。その法律的な根拠、計算方法、そして実際の交渉のやり方をちゃんと理解することが、トラブルを防ぐための一番最初のステップになります。
法律の根拠と計算方法
辞める時のお金(経済補償金)の支払いは、主に働き方の約束に関する法律(労働契約法)で決められています。会社をたたむ時には、会社の都合で働き方の約束を終わらせること(例えば、話し合って辞める、会社を整理するために辞めさせる、客観的な状況が大きく変わったために辞めさせる、会社がなくなる)が起こり、これに伴って辞める時のお金を払う義務が出てきます。
基本的な計算方法は、「N」(働いた年数)に「1ヶ月分の給料」をかける形になります。働いた年数は、6ヶ月以上1年未満の場合は1年として計算され、6ヶ月未満の場合は0.5年(半月分)として計算されます。ここでいう「1ヶ月分の給料」とは、働き方の約束が終わるか、または会社をたたむ前の12ヶ月間の平均の給料のことです。
計算の時の上限ルール(キャップ)
辞める時のお金の計算には、次の2つの大事な上限ルールがあります。
- 給料3倍キャップ:従業員の毎月の給料が、会社がある場所の前の年の従業員の毎月の平均給料の3倍より多い場合、辞める時のお金の計算の元になる毎月の給料は、その3倍が上限になります。
- 働いた年数12年キャップ:上の1.の給料3倍キャップが適用される場合、辞める時のお金の計算対象になる働いた年数は、一番長くて12年になります。毎月の給料が3倍以下の場合は、この働いた年数キャップは適用されません。
これらの上限ルールを使った具体的な計算例は、下の表2にあります。
税金の扱い
払われた辞める時のお金のうち、会社がある場所の前の年の従業員の平均給料の3倍以内の部分は、個人の所得税がかかりません。これを超える部分については、他の所得と一緒にして税金を計算するのではなく、超えた部分だけについて別に所得税が計算されます。会社にとっては、法律の基準に基づいて計算された辞める時のお金は、会社の経費として認められます。
「N+X」(またはN+α)交渉の実際
法律で決められた「N」ヶ月分の辞める時のお金は、あくまで最低の基準です。実際に日本の会社が会社をたたむ例では、法律で決められた金額だけを払って円満に解決するケースは少なく、従業員との合意をスムーズに進めるために、法律で決められた金額に上乗せした金額(「X」ヶ月分、または「α」)を払うことが普通です。この「X」または「α」の金額は、会社の財政状況、従業員がどれくらい求めているか(経済状況にもよります)、会社を早くたたみたい会社の気持ち、地域や業界の慣習など、色々な理由で変わる交渉ごとの問題です。例えば、上海では「N+3」が一つの目安とされることもあります。
この「N+X」という慣習は、会社が辞める時のお金を予算に入れたり、交渉のやり方を考えたりする上で、ものすごく大事です。「N」はあくまで交渉のスタート地点で、最終的なゴールではないことを知っておく必要があります。たくさんの情報源が、法律で決められた金額を超える支払いについて触れており、特に話し合って辞める(協議解除、合意解除)を選ぶ場合、従業員がOKするのに十分魅力的な条件を出すことが絶対に必要で、それは通常、法律で決められた最低額より多くなります。
また、辞める時のお金の計算の元になる「前の12ヶ月間の平均給料」の定義と計算も、トラブルの元になる可能性があります。この平均給料には、基本給だけでなく、ボーナスや手当など、地域のルールや働き方の約束の作り方によっては定期的な支払いと考えられるものも含まれる場合があります。この計算を間違えると(例えば基本給だけで計算する、毎月給料が変わる従業員の計算を間違えるなど)、たとえ「N」や「N+X」の掛け率がOKされていても、もらえるお金の総額が不正確になり、従業員が損をしたと感じてトラブルになる可能性があります。「知らず知らずのうちに払われていない残業代が発生している」という指摘は、会社が給料関係の計算で意図しない間違いをしやすいことを示しています。
表2:中国で会社を辞める時のお金:計算のルールと交渉で大事なこと
計算の要素 | 詳しい内容 |
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法律で決まっている「N」の計算 | |
計算の元になる給料 | 会社を辞める前の12ヶ月間の平均の毎月の給料 |
掛け率(N) | 働いた年数1年につき1ヶ月分(6ヶ月以上1年未満は1年分、6ヶ月未満は0.5ヶ月分) |
例1(上限なしの場合) | 働いた年数5年、平均の毎月の給料8,000元(地域の平均は6,000元)。辞める時のお金 = 8,000元 × 5 = 40,000元。 |
例2(給料3倍キャップが適用される場合) | 働いた年数8年、平均の毎月の給料30,000元(地域の平均は7,000元、3倍の上限は21,000元)。辞める時のお金 = 21,000元 × 8 = 168,000元。 |
例3(給料3倍キャップと働いた年数12年キャップが両方適用される場合) | 働いた年数15年、平均の毎月の給料40,000元(地域の平均は10,000元、3倍の上限は30,000元)。辞める時のお金 = 30,000元 × 12年 = 360,000元。 |
「N+X」交渉 | |
一般的な「X」とは | 法律で決められた金額に上乗せする月数(例:+1ヶ月、+3ヶ月など) |
「X」を決める時のポイント | 会社がどれくらい急いで会社をたたみたいか、従業員がどれくらい強く求めているか、トラブルを避けたい気持ち、地域の慣習、業界の普通など。 |
税金 | |
個人の所得税 | 地域の年間の平均給料の3倍までは税金がかからない。超えた分は別に税金がかかる。 |
B. 従業員を辞めさせること:法律に合ったやり方、よくある失敗、危ないケースの対応
会社をたたむ時に従業員を辞めさせることは、法律のルールを守って慎重に対応しないといけない、一番気を使うプロセスの一つです。
辞めさせ方の法律的な根拠
会社をたたむ時に従業員を辞めさせるのは、主に次の働き方の約束に関する法律(労働契約法)の条文に基づいて行われます。
- 話し合って辞める(協議解除、労働契約法第36条):会社と従業員が話し合ってOKした上で働き方の約束を終わらせる方法。一番リスクが低く、実際の仕事でもおすすめされる方法です。
- 会社を整理するために辞めさせる(経済性リストラ、労働契約法第41条):20人以上の人を減らす場合、または20人未満でも会社の従業員全体の10%以上を減らす場合で、しかも会社の経営がすごく大変になったなどの厳しい条件を満たした場合にできる方法。労働組合か全ての従業員に30日前に状況を説明して意見を聞き、役所に報告する必要があります。妊娠中の人やお腹に赤ちゃんがいる人、仕事でケガをして休んでいる人など、一部の従業員は辞めさせることが制限されます。
- 客観的な状況が大きく変わったために辞めさせる(労働契約法第40条3項):働き方の約束を結んだ時の前提になった客観的な状況が大きく変わって、働き方の約束を守ることができなくなり、しかも会社と従業員で話し合っても働き方の約束の内容を変えることにOKできなかった場合にできる方法。30日前に知らせるか、1ヶ月分の給料を払う必要があります。会社をたたむことで組織や工場がなくなることがこれに当たるかもしれないと言われています。
- 会社がなくなるために辞めさせる(労働契約法第44条5項):会社がなくなることは、働き方の約束が終わる法律で決まった理由になります。ただし、この法律的な権利があったとしても、実際には従業員の反対を避けるために、話し合って辞める形をとることが普通です。
よくある失敗
- 会社を整理するために辞めさせる時の手続きのミス(労働組合や従業員への説明や話し合いが足りない、知らせる義務を守らないなど)。
- 会社をたたむことを発表するタイミングや方法の間違いで、従業員が会社を信じなくなったり、仕事を放棄したりする。
- 辞めさせることが制限される従業員(妊娠中の人、仕事でケガをして休んでいる人など)への配慮が足りない。
- 辞めさせる理由や話し合いのプロセスの記録がちゃんと残っていない。
危ないケースの対応
特に注意が必要な従業員(「要注意従業員」)への対応は、トラブルを事前に防ぐ上で大事になります。これには、情報が漏れるのを防いだり、ストライキや仕事のサボタージュに備えたりすることも含まれます。従業員を事前に「協力的」なグループと「問題を起こしそう」なグループに分けて、それぞれに合わせた話し合いのやり方を考えることがすすめられています。
会社が法律的に辞めさせる理由(例えば会社がなくなること)を持っていたとしても、実際には従業員のOKを得ることが優先され、多くの場合、法律で決められた基準より良い条件を出す(話し合って辞める)ことが選ばれます。これは、強い態度が大きなトラブルや仕事のストップ(「暴動に発展する可能性」)といった、もっと大きな経営のリスクを引き起こしかねないからです。法律的な権利を振りかざすよりも、現実的で話し合いを大事にするやり方が、結果としてスムーズな会社をたたむことにつながることが多いです。
また、従業員を事前にグループ分けして、それぞれに合わせた対応を計画することは、単に問題行動を起こしそうな従業員を見つけるだけでなく、話し合いのやり方や辞める時のお金の提示額などを調整し、トラブルのリスクを事前に管理し、協力的な従業員との連携を築く上で効果的です。「要注意人物」にはもっと慎重な交渉や、場合によってはもっと手厚い条件が必要になるかもしれません。このような事前のグループ分けは、みんなに同じ対応をするのではなく、資源を効率的に使い、的を絞ったトラブル予防策を可能にします。
C. もしかしたらある借金:まだ払っていない給料、残業代、そして社会保険や住宅のためのお金の精算の大切さ
会社をたたむ時には、普段の仕事では表に出てこない「隠れた借金」がはっきりして、大きなリスクになることがあります。特に、まだ払っていない給料、残業代、そして社会保険料や住宅のためのお金(住宅積立金)を払っていなかったり、計算を間違えたりしている場合は注意が必要です。
会社が「ちゃんとわかっていない情報」によって、意図していなくてもまだ払っていない残業代などが発生しているケースは少なくありません。これらは会社をたたむ時のチェックや従業員からの指摘で見つかり、過去にさかのぼってまとめて請求されるリスクがあります。
さらに重大なのは、社会保険料(年金、医療保険、失業保険、労災保険、出産保険)と住宅のためのお金(住宅積立金)のルールを守っているかということです。これらを払っていなかったり、計算の元になる金額を間違えたりしていた場合、遅れたことに対するお金(例えば、1日あたり払っていない金額の0.05%)や罰金(払っていない金額の同じ額以上3倍以下など)が取られる可能性があります。これらのまだ払っていない分は、会社をたたんで綺麗にする手続きの中で必ず精算して解決しないといけない項目で、税金の役所や社会保険の管理センター、住宅のためのお金の管理センターといった関係する役所との間で、最終的に払ったり、口座を閉めたりする手続きが絶対に必要になります。
社会保険料や住宅のためのお金を完全に精算することは、会社の登記を消す手続きを終わらせるための「関門」とも言えます。これらの借金(過去に払っていない分や罰金も含む)が精算されない限り、役所が最終的な会社の解散や清算をOKしない可能性が高いです。これらの支払いは単に従業員への借金ではなく、国に対する義務なので、会社はこれらをただ「放棄」することはできません。会社をたたむ前に徹底的に調べること(デューデリジェンス)がものすごく大事なのはこのためです。
「知らず知らずの違反」という指摘は、多くの外国の会社が中国の複雑な働き方のルールの細かい部分(例えば、複雑な残業の計算ルールや社会保険料の計算の元になる金額を正しく理解すること)を完全に守れていないかもしれないことを示しています。普段の仕事では見過ごされていたこれらの「まだ知られていない」あるいは「小さな」問題が、会社をたたむという厳しい監視の下では、たくさんの追加費用や深刻なトラブルへと発展する可能性があります。これは会社の財務計画を狂わせるだけでなく、組織的に払っていなかったという印象を与えれば、会社の評判にも傷をつける可能性があります。
D. 労働組合(工会)や従業員の代表との話し合い:義務とやり方
中国で会社をたたむ時、特に人を減らす場合は、労働組合(工会)や従業員の代表とちゃんと話し合うことは、法律で決められた義務であると同時に、トラブルを避けるための大事なやり方になります。
働き方の約束に関する法律(労働契約法第41条)は、会社を整理するために辞めさせる(経済性リストラ)場合、会社は30日前に労働組合か全ての従業員に対して状況を説明し、意見を聞き、人を減らす案を役所に報告しないといけないと決めています。これ以外の場合でも、会社をたたむことに関する大事な決定事項、特に従業員の扱いに関わる問題については、従業員の代表と話し合うことが実際の仕事では絶対に必要です。会社がリストラの案を労働組合や従業員の代表に出して、辞める時のお金の条件などについて交渉するプロセスが普通です。
2024年7月から始まった新しい会社のルール(改正会社法)によって、従業員が300人より多い会社には従業員の代表を会社の偉い人の一人にすることが義務付けられました。この従業員の代表が、会社をたたむ時の話し合いでどんな役割をするか注目されます。
効果的な話し合いのやり方としては、隠し事をしないこと、誠実な態度で交渉すること、そしてできる範囲で従業員の代表を解決策を作るプロセスに参加させることが挙げられます。労働組合や従業員の代表との関係を軽く見たり、不誠実な対応をしたりした場合、問題が大きくなって、労働争議や外部への告発といった事態を招く可能性があります。話し合いの過程では、何回も会議を開いたり、会議で話したことを記録したり、質問に丁寧に答えたりすることが求められます。
労働組合や従業員の代表とちゃんと話し合い、そのプロセスを書類に残すことは、単に法律の手続きを守ることを超えて、不当なクビや不誠実な対応といった主張に対する会社の守りになります。これは、役所や労働問題の仲裁委員会が手続きの公正さを大事にする傾向があるからです。会社が誠意をもって話し合いに臨み、会社をたたむ理由を説明し、従業員の意見を聞いた(たとえ全ての要求に答えられなかったとしても)ことを示せれば、会社の立場は強くなります。
労働組合や従業員の代表は、会社との関係や話し合いの進め方次第で、会社をたたむプロセスをスムーズに進めるための協力者にも、あるいは大きな邪魔者にもなり得ます。彼らが会社をたたむ必要性や提示された条件の合理性を理解すれば、一般の従業員への説明や説得に協力してくれる可能性があります。しかし、無視されたと感じたり、不当な扱いを受けていると判断したりすれば、従業員の抵抗運動を組織し、集団でのトラブルへと発展させる可能性もあります。特に大きな会社での新しい従業員の代表の存在は、この力関係に新しい側面を加えることになるでしょう。
IV. 従業員トラブルを防ぎ、対応するための積極的なやり方
会社をたたむことに伴う従業員とのトラブルは、事前のしっかりした準備と戦略的な対応によって、その発生リスクを大幅に減らすことができます。
A. 戦略的な会社をたたむ計画:一番いいタイミング、段階的なやり方、発表の仕方
会社をたたむことを発表するタイミングと方法は、その後のプロセス全体を左右する、ものすごく大事な要素です。発表が早すぎたり、タイミングを間違えたりすると、従業員のやる気がなくなったり、仕事を放棄したり、過去の不満が噴き出したり、労働争議に発展したりする事態を招き、結果として会社をたたむ費用が増えたり、スケジュールが遅れたりすることにつながります。
特に注意しないといけないのは、情報が漏れるリスクの管理です。従業員より先に取引先などの外部の人に情報が伝わり、そこから従業員に漏れるケースは、労働争議の一般的な引き金になります。誰に、どの順番で情報を伝えるかは、慎重に考えないといけない戦略的な判断です。
発表の仕方は、会社のビジネスの形によっても調整が必要です。在庫をたくさん用意したり、他の場所から商品を供給し続けたりすることができれば、比較的短い期間で仕事をやめることも考えられます。一方、そういう対応が難しい業種(例えば、自分の会社が一連の商流やビジネスのプロセスに深く関わっている場合)では、辞める時のお金を普通より手厚くするなどして、従業員への説明会の後も一定期間、仕事が安定して続くように配慮する必要があります。
会社をたたむことを発表する前の準備としては、要注意人物を見つけたり、協力的になってくれそうな従業員を見極めたり、発表の具体的なタイミングなどを事前にしっかり考えることが絶対に必要です。
不適切な発表が引き起こす「ドミノ倒し効果」は深刻です。一度秩序が失われると、過去の未解決の問題(例えば、払われていない残業代)が次々と表に出てきて、会社をたたむ仕事に必要な主要な従業員の協力を得られなくなり、会社が合理的な交渉をする能力が著しく損なわれます。最初の対応が、会社をたたむプロセス全体の雰囲気を決めると言っても大げさではありません。
したがって、戦略的な情報のコントロールは、トラブル予防のための強力な手段になります。情報が漏れるのを防ぎ、発表の順番を慎重に計画することで、不必要なパニックや組織的な抵抗を事前に防ぐことができます。これは、何を伝えるかだけでなく、いつ、誰に伝えるかという問題でもあります。
B. コミュニケーションが鍵:効果的な従業員との話し合い計画の作り方と実行(会議、個別の面談も含む)
会社をたたむという難しい状況でも、従業員との間で誤解をできるだけ少なくし、できる限りの信頼関係を作るためには、はっきりしていて、誠実で、相手の気持ちを考えたコミュニケーションが絶対に必要です。
コミュニケーションは、全ての従業員を対象にした説明会(従業員説明会)と、一人ひとりの面談(個別面談)を組み合わせるなど、いくつかの方法で行うべきです。このプロセスには、現地の中国人の管理職や人事担当者、さらには法律や会計の専門家を参加させることが望ましいです。実際に、弁護士が従業員説明会に同席するケースも見られます。
伝えるべき内容は、会社をたたむ理由、具体的なスケジュール、辞める時のお金を含む退職の条件の詳細、質問の時間、苦情や問い合わせの受付方法などです。コミュニケーションの内容や方法は、事前に分けた従業員のグループ(例えば、協力的、リスクが高いなど)に合わせて調整することも効果的です。
話し合って辞める(協議解除、合意解除)場合は特に、後々のトラブルを避けるため、合意した内容を書いた書類(同意書)に従業員が自分でサインをすることがものすごく大事になります。
また、現地の文化的な背景を理解したコミュニケーションも大事です。例えば、中国人の専門家との関係を作る時には、公式な会議だけでなく、「雑談」を通じた非公式なコミュニケーションが効果的な場合もあると言われています。
従業員説明会などのプロセスを詳しく計画し、隠し事をせず、敬意をもって対応することは、中国文化で大事にされる「面子(メンツ)」を立てることにもつながり、従業員が不当または自分勝手に扱われたと感じるリスクを減らします。これは、トラブルの火種を減らす上で非常に大事です。辞める時のお金の計算の根拠をはっきり示すことも、公正な扱いであるという認識を促します。
さらに、現地の中国人の偉い人や、非公式なコミュニケーションを通じて信頼関係を作った現地の弁護士や会計士といった「つなぎ役」を使うことは、戦略的に価値が高いです。彼らは文化や言葉の壁を埋め、従業員の感情の細かい動きを察知し、会社をたたむという難しいメッセージをより効果的に伝える助けになります。
C. 全体的なチェック:従業員関係のリスク(お金、法律、仕事のやり方)を洗い出して数値化する
会社をたたむことをスムーズに進めるためには、事前に従業員関係のあらゆるリスクを洗い出し、数値化する全体的なチェック(デューデリジェンス)が絶対に必要です。「ちゃんとわかっていない情報」が原因の隠れた借金は、特に注意しないといけないリスクです。
従業員関係のチェックで調べるべき具体的な項目は次の通りです。
- 従業員の記録が正確か(働き方の約束の書類、働いた年数、辞める時のお金の計算のための給料データなど)。
- 社会保険料と住宅のためのお金をちゃんと払っているか(払っていない分、計算の元になる金額の間違いなど)。
- まだ払っていない残業代、給料、その他の手当。
- 特別に配慮が必要な従業員の状況(妊娠中の人、病気で休んでいる人、仕事でケガをしたと認められた人など)。
- 今ある従業員とのトラブルや苦情があるか。
このチェックには、法律と財務の専門家を参加させることがすすめられています。チェックの結果は、隠れたお金の負担と法律的なリスクをはっきり数値化し、会社をたたむ予算を作ったり、交渉のやり方を考えたりするのに役立てるべきです。
会社をたたむことを発表する前に全ての隠れた従業員関係の借金を特定し数値化することで、会社は2つの大きなメリットを得ます。第一に、会社をたたむのにかかる費用を正確に予算に入れることができ、予想外のお金のショックを避けることができます。第二に、従業員との交渉で、自分たちが一番損をする可能性(最大エクスポージャー)をはっきりわかった上で臨むことができ、より戦略的な条件を出すことが可能になります。チェックでわかった「帳簿に載っていない借金」や「ちゃんとわかっていない情報」に関連する従業員関係の費用は、会社をたたむことを発表した後に従業員からの請求で初めてわかった場合、会社は受け身で不利な交渉の立場に置かれることになります。
D. ルールを完全に守る:社会保険、住宅のためのお金、その他従業員の権利の最終的な精算
会社をたたむことを完了するためには、まだ払っていない全ての社会保険料(年金、医療、失業、労災、出産保険)と住宅のためのお金(住宅積立金)の精算が絶対に必要な条件になります。これには、過去に払っていない分や計算間違いによる足りない金額、さらには遅れたことに対するお金や罰金も含まれます。これらの精算は、会社の解散や登記を消す手続きを成功させるための前提条件です。
このプロセスには、社会保険の管理センター、住宅のためのお金の管理センター、税金の役所(関連する税金の精算のため)、場合によっては労働局など、いくつかの政府の部門との連携が必要になります。具体的な手続きの細かい部分は地域や時期によって違うかもしれないので、専門家による最新情報の確認が絶対に必要です。
最後の給料の支払い、まだ使っていない有給休暇を買い取ること(例えば、使っていない日数 × 1日の給料 × 300%で買い取ることが一般的とされています)、まだ払っていないボーナスの支払いなど、従業員に対するお金の権利も全て精算する必要があります。
いくつかの役所(社会保険、住宅のためのお金、税金など)とのやり取りが必要になるため、ある役所での手続きの遅れや問題が、全体のプロセスを止めてしまう可能性があります。これらの役所が必ずしもスムーズに連携するとは限らないので、会社は各手続きを個別に、しかも細心の注意を払って管理する必要があります。例えば、税金の役所からの支払いが終わった証明書がなければ社会保険センターが口座を閉める手続きを進められない、といった連鎖的な影響も考えるべきです。記録をちゃんと管理し、各役所と積極的に問題を解決することが求められます。
V. 実際の例から学ぶ:過去の会社をたたむ時の教訓(具体例)
中国から会社をたたむことは、成功も失敗もたくさんの教訓を残しています。具体的な例を分析することで、より効果的なやり方を見つけ出すことができます。
問題が起きた例
過去の例では、次のような問題が報告されています。
- ルール違反が会社をたたむ時に見つかり、役所からたくさんの罰金や追加のお金を払わされるケース。
- 税関の手続きの問題から罰金ややり直し命令を受けるケース。
- 会社の財産を売ったり、合弁会社を解消したりする交渉で、役所から受け入れられない条件を出されるケース。
- 従業員とのトラブルが労働問題の仲裁や裁判に発展し、会社をたたむ費用が増えたり、スケジュールが遅れたりするケース。
うまくいったと思われる例
一方で、次のような対応は、比較的スムーズな会社をたたむことにつながったと考えられます。
- 法律で決められた基準より多い辞める時のお金(例えば「N+1」やそれ以上)を出すことで、従業員のOKをスムーズにもらって人の整理を終わらせた例。例えば、約900人の従業員に対し「N+1」の辞める時のお金と旧正月のお祝い金を払ったケースや、上海では「N+3」くらいが普通の水準として話し合って辞める時に使われるという指摘があります。
- 弁護士や関係する役所を巻き込み、しっかりした計画のもとで従業員説明会や個別の面談を実施し、合意を作るようにした包括的なコミュニケーション戦略。
- 日本の貿易振興機構(ジェトロ)の報告書には、中国でビジネスをした日本のサービス会社が直面した色々な人事や働き方の問題(高い離職率、研修の難しさ、文化の違いなど)とそれを乗り越えた方法がたくさん紹介されています。これらは直接会社をたたむ例ではありませんが、会社をたたむというものすごくデリケートな状況での異文化間の人の管理に応用できる貴重な教訓を含んでいます。例えば、あるお弁当販売会社は、日本のやり方を基本にしつつも現地の考え方ややり方を柔軟に取り入れることで困難を乗り越えたと報告されています。
これらの例からわかるのは、会社をたたむ時の「成功」とは、多くの場合、法律的な権利を強く主張したり、費用削減を一番に考えたりすることではなく、むしろ事前の問題解決と妥協によって達成されるということです。法律で決められた最低限の義務を果たしたり、安易な費用削減にこだわったりした会社は、しばしば高額なトラブル費用と大幅な遅れに直面します。対照的に、しっかりした計画、隠し事のないコミュニケーション、そして法律で決められた基準を超えることも気にしない辞める時のお金の提示をした会社は、依然として費用はかかるものの、よりスムーズな会社をたたむことを実現する傾向にあります。つまり、「勝利」とは目先の支払いを一番少なくすることではなく、予想できる期間内に、管理できるレベルの混乱で会社をたたむという戦略目標を達成することであり、そのためには従業員との和解やプロセスのスムーズ化への事前の投資がしばしば必要になるのです。
VI. 2025年に中国からスムーズに会社をたたむための具体的なアドバイス
A. 会社をたたむ前のチェックリスト:従業員管理のために絶対に準備しておくこと
中国から会社をたたむことを成功させるためには、事前の全体的な準備が絶対に必要です。次のチェックリストは、従業員管理の観点から特に大事な項目をまとめたものです。
表3:中国から会社をたたむ時の従業員トラブルを減らすチェックリスト
段階 | 主な項目 | 具体的な内容 |
---|---|---|
段階1:最初の計画・評価 | 会社をたたむやり方の決定 | 会社をたたむ目的・スケジュールの明確化、社内で会社をたたむことを進めるチームの任命 |
専門家の選定 | 現地の経験が豊富な法律・財務アドバイザーを早めに頼むこと | |
リスク評価 | 経済・政治・法律・従業員関係のリスクの予備的な評価 | |
予算作成 | 従業員関係の費用を含む会社をたたむ費用の最初の予算作成 | |
段階2:詳しいチェック(従業員関係を中心に) | 従業員の契約のチェック | 契約が有効か、条件、特別な条項の確認 |
働いた年数・給料データの確認 | 辞める時のお金の計算の元になる金額を正確に把握すること(過去12ヶ月分) | |
社会保険・住宅のためのお金のチェック | 払っていない分、計算の元になる金額の間違い、罰金があるかないか確認。役所からの証明書をもらうこと。 | |
まだ払っていない残業代のチェック | 法律を守っているか、記録されていない残業の洗い出し | |
保護が必要な従業員の特定 | 妊娠中の人、病気で休んでいる人、仕事でケガをしたと認められた人などの把握 | |
今ある従業員と会社との関係書類のレビュー | 働き方の約束以外の合意書、労働組合との合意書、会社のルールの確認 | |
隠れた従業員関係の借金の数値化 | 隠れた全ての従業員関係の費用の試算 | |
段階3:やり方の決定・準備 | 会社をたたむ方法の最終決定 | 会社をなくす、会社の権利を譲るなど、それが従業員関係にどう影響するか分析 |
従業員の整理・辞める時のお金の計画作成 | 詳しい辞めさせ方・辞める時のお金の計画(「N+X」戦略も含む) | |
コミュニケーション計画作成 | 時期、メッセージ、方法、予想される質問と答えの準備 | |
法律的な書類の準備 | 辞める時の合意書、会議の記録などの作成 | |
社内チームの研修 | コミュニケーション・交渉スキルの向上 | |
お金の確保 | 辞める時のお金やその他の費用の支払いの準備 | |
情報・財産の保全計画 | 情報が漏れるのを防ぐこと、財産を守る方法の決定 | |
段階4:実行・交渉 | コミュニケーション計画の実行 | 従業員説明会、個別の面談の実施 |
従業員・労働組合などとの交渉 | 誠実な交渉の実施 | |
合意書の締結 | 話し合って辞める合意書にサインをもらうこと | |
辞める時のお金の支払い | 正確に、期限通りに支払うこと | |
トラブル・苦情への対応 | 起きたトラブル・苦情への適切な対応 | |
関係する役所との連携 | 必要に応じて労働局などとの連絡・報告 | |
段階5:辞めさせた後・最終的な精算 | 退職証明書の発行 | 従業員への退職関係の書類の発行 |
社会保険・住宅のためのお金の最終精算 | 役所とのまだ払っていない分の支払い・口座を閉める手続きの完了 | |
最後の給料などの支払い | まだ払っていない給料、まだ使っていない有給休暇の買い取りなどの完全な支払い | |
従業員への支援(必要な場合) | 社会保険・住宅のためのお金の移転手続きの手伝い | |
会社の登記を消す手続きの完了 | 全ての役所の手続きの完了 | |
記録の保管 | 法律で決められた期間に基づく適切な記録の保管 |
このチェックリストは、一度作ったら終わりではなく、会社をたたむプロセスを通じて変わりうるリスク管理の枠組みとして機能します。チェックの結果や従業員との最初の接触、あるいは新しいルールが発表されるなど、新しい情報が入ってくるたびに見直され、計画の調整に役立てられるべきです。
B. 現地の専門家の絶対に必要な役割:法律の専門家やコンサルタントの選び方と連携の仕方
中国から会社をたたむという複雑なプロセスでは、現地の法律、実際の仕事のやり方、文化に詳しい専門家の協力が絶対に必要です。彼らは、変わり続ける法律やルールの解釈、地域ごとの実際のやり方の把握、交渉での文化的な細かいニュアンスの理解、そして現地の役所とのやり取りで、会社を強くサポートします。
法律の専門家やコンサルタントを選ぶ時の基準としては、中国から会社をたたむ案件や従業員とのトラブルでの豊富な実績、現地の強いネットワーク、日本語と中国語の両方に対応できるコミュニケーション能力、そして日本の会社の文化への理解などが挙げられます。
うまく連携するためには、会社側からのはっきりした目標の伝達、全ての情報の提供、専門家が現地の状況に基づいて行う判断への信頼、そして計画の最初の段階からの参加が大事です。「雑談」などを通じた非公式なコミュニケーションも、信頼関係を作るのに役立つ場合があります。
専門家は、法律的なアドバイス、チェックの支援、交渉のやり方の立案、従業員・労働組合・役所とのコミュニケーション代行、法律的な書類作成、そして万が一トラブルが起きた場合の仲裁や裁判への対応など、色々な役割を担います。
一番良い現地のアドバイザーは、単に法律を解釈するだけでなく、文章になっていない現地のルール、地方の役所の「雰囲気」、従業員の典型的な反応、そして法律を読むだけではわからない効果的な交渉術といった戦略的な情報を提供します。彼らは、会社をたたむ時の「暗黙のルール」を読み解く水先案内人になります。会社は、書類上の経歴だけでなく、このような実践的で深い洞察を提供する能力に基づいて専門家を選ぶべきです。
C. 会社をたたんだ後の義務と残るリスクの管理
従業員を辞めさせて会社の仕事をやめた後も、会社の法律的な責任が完全に消えるわけではありません。会社をたたんだ後の義務を確実に果たし、残るリスクを管理することが、本当に「きれいに会社をたたむ」ためには絶対に必要です。
一番大事なのは、税金の役所、市場の監督管理局、社会保険の管理センター、住宅のためのお金の管理センターなど、関係する全ての役所への登記を消す手続きを完全に終わらせることです。このプロセスは、従業員を辞めさせた後も数ヶ月、場合によっては1年以上かかることがあります。この間、会社は法律的には存在しており、最終的な手続きを終わらせるために、最小限の現地の代理人や連絡窓口が必要になる場合があります。
また、従業員との間で結んだ話し合って辞める合意書が全てのことをカバーしていなかったり、新しい問題が見つかったりした場合、会社をたたんだ後にクレームが発生する可能性もゼロではありません(ただし、ちゃんと作られた合意書はこれを防ぐことを目的とします)。
その他、法律で決められた期間に基づく関連書類の保管義務、残っている現地の関係者とのコミュニケーション管理、そして最終的な財産やお金を送る手続きなども、会社をたたんだ後の大事な仕事になります。
この「長い尾を引く」会社をたたむプロセスは、コンサルタント費用や、場合によっては最小限のオフィス維持費など、追加の費用がかかる可能性があり、会社の本体の仕事が終わった後も、経営陣の継続的な注意が必要になります。
VII. まとめ:2025年以降の中国から会社をたたむやり方をより良くするために
2025年に中国から会社をたたむことは、新しい法律の変更、続く経済的なプレッシャー、そして絶えず変わるルールという、今まで以上に複雑な要因が絡み合う中で進めなければなりません。この解説で詳しく説明した通り、これらの課題に対応するためには、過去の経験だけでは十分ではなく、より高度なやり方と細心の注意が必要です。
トラブルを避け、スムーズに会社をたたむための中心となる要素は、次の通りです。
- しっかりした事前の計画:リスク評価、予算作成、色々なケースを想定した計画を含む徹底的な準備。
- 完全な法律ルールの遵守:最新の中国の働き方のルール、会社のルール、その他関連する法律やルールの正確な理解と遵守。特に2025年から変わる点への対応。
- 隠し事がなく相手の気持ちを考えたコミュニケーション:従業員、労働組合、関係する役所との誠実な話し合い。
- 公正な従業員の扱い:法律で決められた基準を満たすことはもちろん、多くの場合、それ以上の辞める時のお金や配慮が円満な解決の鍵になります。
- 現地の専門知識への深い依存:法律、会計、従業員関係、そして現地の「空気」を読む能力に優れた専門家との緊密な連携。
会社が会社をたたむ時にどうするか、特に従業員をどう扱うかは、その会社の価値観を表し、長期的な評判に影響を与える可能性があります。「甘くない『中国撤退』従業員交渉に壁、日系企業へ批判も」といった報道は、従業員の問題を不適切に処理することが公的な批判につながり得ることを示しています。世界的に会社の倫理への関心が高まっている現代において、不公正または冷たいと見なされる会社をたたむプロセスは、中国国内だけでなく、国際的なブランドイメージをも損なう可能性があります。したがって、会社をたたむ「費用」は財務的なものだけでなく、評判への隠れたダメージも含むことを認識し、やり方に織り込む必要があります。
中国の法律の仕組みや経済の状況は今後も変わり続けることが予想されるため、会社は継続的な情報収集と分析を行い、将来の戦略的な意思決定に備える必要があります。この解説が、困難な中国ビジネスから会社をたたむことを考えている日本の会社にとって、実践的な指針となることを期待します。
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