「うちの子、なかなかしつけが上手くいかない…」
「良かれと思ってやっていることが、もしかして逆効果なの?」
愛犬との暮らしは、かけがえのない喜びを与えてくれます。しかし、しつけの方法を一歩間違えると、愛犬を混乱させ、不安に陥らせ、最悪の場合、あなたとの大切な信頼関係を壊してしまうことさえあるのです。
ひと昔前の「犬は力で支配するもの」という考え方は、今や科学的に否定されています。現代の犬のしつけは、犬の行動学に基づき、褒めて教える「陽性強化」が主流です[1]。
この記事では、最新の獣医行動学や専門家の知見に基づき、愛犬のしつけで「絶対にやってはいけないNG行動」を具体的に解説します。なぜそれらがNGなのか、そして愛犬の心と体にどのような影響を与えるのかを深く理解することで、あなたは知らず知らずのうちに愛犬を傷つけてしまうリスクを避け、より効果的で愛情深いしつけができるようになるでしょう。
この記事を読み終える頃には、愛犬との絆をさらに深め、共に幸せに暮らすための正しい知識と自信が身についているはずです。さあ、愛犬が安心して学べる環境づくりの第一歩を、一緒に踏み出しましょう!
1. なぜ「NGなしつけ」を知ることが重要なのか?
犬のしつけは、愛犬と飼い主さんが共に幸せに、そして安全に暮らすために不可欠です。しかし、インターネットやSNSには様々な情報が溢れており、「何が本当に正しいのか分からない」と悩む飼い主さんも少なくありません[7]。
実は、良かれと思ってやっているしつけが、知らず知らずのうちに愛犬にストレスを与え、問題行動を悪化させているケースは珍しくありません。特に、体罰や大声で叱る、一貫性のない態度などは、犬の心に深い傷を残し、飼い主さんへの信頼を揺るがせてしまいます。
本記事の目的は、専門家の共通認識と科学的根拠に基づき、犬のしつけで避けるべき「NGなこと」を明確に示し、それがなぜ愛犬にとって有害なのかを分かりやすく解説することです。これにより、あなたが愛犬とのより強く、より肯定的な絆を育むお手伝いができれば幸いです[5]。
2. これだけは避けて!根本的に有害なしつけ方とその影響
まず、犬の心身の健康と福祉を著しく損なう、根本的に避けるべきNGなしつけ方を理解しましょう。以下の表は、主なNG行動とその影響をまとめたものです。
NG行動 | なぜNGなのか | 主な負の影響 | 関連資料例 |
---|---|---|---|
1. 体罰・暴力行為 (叩く、蹴るなど) | 犬に恐怖と苦痛を与え、信頼関係を破壊。根本的解決にならず、問題行動を悪化させる可能性。動物福祉の侵害。 | 恐怖心、不安、攻撃性の誘発、学習意欲の低下、飼い主への不信感、学習性無力感。 | [7] |
2. 大声で怒鳴る | 犬を恐怖で支配するだけで、根本的なしつけにならない。犬は緊張し、不安を感じる。 | 恐怖心、不安、飼い主への不信感、問題行動の悪化の可能性。 | [7] |
3. 事後に叱る | 犬は何に対して叱られているか理解できない。 | 犬の混乱、不安、飼い主への不信感。しつけの効果なし。 | [7] |
4. 名前を呼んで叱る | 犬が自分の名前を嫌なことと関連付けてしまう。 | 名前を呼ばれることを嫌がる、呼び戻しへの反応低下。 | [7] |
5. 一貫性のない態度・ルール | 犬が混乱し、常に不安を感じる。何をすべきか学べない。 | 不安、葛藤、学習困難、問題行動の悪化。 | [8] |
6. 叱ってばかりで褒めない | 犬にとってしつけが苦痛な時間となり、学習意欲が低下する。 | ストレス、学習意欲の低下、しつけの失敗。 | [7] |
7. 無理やり目を合わせようとする | 犬にとって威嚇やプレッシャーとなり、恐怖心を与える。服従のサインを無視することになる。 | 恐怖心、信頼関係の悪化。 | [7] |
8. 食事前の「マテ」の誤用 (過度な我慢の強要) | 食事に対する不安や執着を強め、フードアグレッッション(食べ物に対する攻撃性)を助長する可能性。 | 食事への不安、フードアグレッッション、ストレス。 | [22] |
9. 噛んでいる物を無理やり取り上げる | 所有欲を刺激し、取られまいとして攻撃的になったり、飲み込んだりする危険性。 | 攻撃性、誤飲、信頼関係の悪化。 | [9] |
10. 要求吠えに応じる (吠えたら要求を聞く) | 「吠えれば要求が通る」と学習し、無駄吠えが悪化する。 | 無駄吠えの習慣化。 | [7] |
これらのNG行動は、犬の「5つの自由」(飢えと渇きからの自由、不快からの自由、痛み・怪我・病気からの自由、正常な行動を表出する自由、恐怖や苦悩からの自由)という、動物福祉の基本的な考え方を侵害する可能性が高いものです[2, 31]。
2.1. 【絶対NG】体罰・暴力行為(叩く、蹴る、首を絞めるなど)
なぜNG?
体罰は、犬を叩く、蹴る、揺さぶる、チョークチェーン(首を絞めるタイプの首輪)を罰として用いるなど、身体的な痛みや苦痛を引き起こすあらゆる行為を指します[7, 13]。これは、犬に恐怖、痛み、そして著しいストレスを与えるだけでなく、動物虐待と見なされる可能性もあります[2, 8]。
一時的に問題行動が収まったように見えても、それは犬が「学んだ」のではなく、単に「罰を恐れて行動を止めた」だけです[7]。
負の影響は深刻です:
- 信頼関係の崩壊: 飼い主を「痛みを与える怖い存在」と認識し、絆が壊れます[5]。
- 不安と恐怖心の増大: 常にビクビクし、些細なことにも怯えるようになる可能性があります[8]。
- 攻撃性の誘発・悪化: 追い詰められた犬が、自己防衛のために噛みつくなどの攻撃行動に出ることがあります[7, 8, 11]。
- 学習性無力感: 何をしても罰せられると感じると、犬は無気力になり、うつ状態のようになることがあります(シャットダウン)[8, 14]。
- 根本的な解決にならない: なぜその行動がいけないのか、代わりにどうすれば良いのかを教えることはできません[7, 11]。
専門機関も強く反対しています。 日本獣医動物行動研究会は、体罰を「動物福祉を侵害する暴力の一形態」と明確に定義し、反対しています[2]。
「罰の罠」に注意!
罰は一時的に行動を止める効果があるため、飼い主さんは「効いた!」と勘違いしがちです。しかし、犬は根本を理解していないため、行動は再発します。すると、飼い主さんはさらに強い罰を与えようとし、罰がエスカレートする悪循環に陥ることがあります[14]。これは犬にとっても飼い主さんにとっても不幸な結果を招きます。
2.2. 【これもNG】大声で怒鳴る・突然大きな音を出す
なぜNG?
大声で怒鳴ったり、物を叩いて大きな音を出したりする行為も、主に犬を驚かせ、怖がらせることで効果を発揮します[7]。
負の影響:
- 恐怖と不安: 犬は緊張し、不安を感じ、飼い主さんへの信頼を失います[7, 8]。
- 臆病な性格の形成: 全般的に臆病になったり、大きな音に過敏になったりする可能性があります。
- 攻撃行動の誘発: 恐怖から防御的な攻撃行動に出ることがあります[8]。
- 誤解による行動強化: 一部の犬は、甲高い興奮した叫び声を「注目された」「遊んでくれている」と勘違いし、望ましくない行動を繰り返すことさえあります[10]。
どうすればいい?
問題行動を中断させたい場合は、落ち着いた、しっかりとした低いトーンの声で「ダメ」など短い言葉で伝えましょう[10, 17]。そして、どうすれば良いのかを褒めながら教えることが大切です。
3. やってしまいがち!叱り方・修正におけるよくある間違い
正しい叱り方や修正のタイミングを間違えると、しつけの効果がないばかりか、愛犬を混乱させてしまいます。
3.1. タイミングの間違い:事後に叱る(「帰宅したらイタズラが…!」はNG)
なぜNG?
犬は「今、この瞬間」を生きています。数分前、ましてや数時間前に行った行動と、現在の叱責を結びつけることはできません[7]。帰宅後にイタズラを発見して叱っても、犬は何に対して叱られているのか理解できず、ただ「飼い主さんが怒っている」としか認識しません。
負の影響:
- 混乱と不安: なぜ叱られているのか分からず、飼い主さんに対して恐怖や不安を抱きます[7, 10]。
- しつけ効果なし: 「靴を噛んではいけない」という教訓は学べません[7]。
- 信頼関係の悪化: 飼い主さんが予測不可能な怖い存在になってしまいます。
どうすればいい?
望ましくない行動を修正するなら、行動の最中、または直後(1~2秒以内)でなければ意味がありません[7, 11]。その瞬間を逃したら、叱るのではなく、なぜイタズラが起きたのか(例:退屈だった、手が届くところに置いてあった)原因を考え、環境を改善し、今後はどうすれば良いかを教えることに集中しましょう。
3.2. 伝え方の問題:これでは伝わらない!
3.2.1. 名前を呼んで叱る
なぜNG?
犬の名前は、常にポジティブなこと(褒められる、呼ばれると良いことがある)と結びつけるべきです。叱る時に名前を使うと、犬は「自分の名前=嫌なこと」と学習してしまいます[7]。
負の影響:
- 名前を嫌がる: 自分の名前を呼ばれることを恐れたり、呼び戻しに応じなくなったりする可能性があります[7, 8]。
どうすればいい?
叱る(中断させる)際には、「あっ!」「いけない」など、短く中立的な言葉を使いましょう[7]。
3.2.2. 笑顔で叱る、体に触れながら叱る
なぜNG?
犬は人の表情や声のトーン、ボディランゲージに非常に敏感です。笑顔で叱ったり、優しく撫でながら叱ったりすると、言葉の内容と態度が矛盾し、犬は混乱します[7]。
負の影響:
- 叱られていると認識しない: 褒められている、注目されていると勘違いし、望ましくない行動を繰り返す可能性があります[7]。
どうすればいい?
もし叱る必要がある場合は、真剣な表情と低いトーンの声で、短く伝えましょう。笑顔や優しいスキンシップは、褒める時のために取っておきましょう[7]。
3.2.3. 一貫性のない指示やルール(家族間でバラバラもNG)
なぜNG?
ある行動が、ある時は許され、ある時は叱られる、あるいは家族の中で言うことが違うと、犬は何を基準にすれば良いのか分からず、常に混乱し不安を感じます[6]。
負の影響:
- 不安と葛藤: 犬は常に「これは大丈夫かな?」とビクビクし、ストレスを感じます[8]。
- 学習困難: 何が正しい行動なのかを学ぶことが非常に難しくなります。
- 信頼関係の悪化: 飼い主さんの行動が予測不可能で不公平に感じられます。
どうすればいい?
家族全員でルールを統一し、一貫した態度で接することが非常に重要です[6, 17]。犬は予測可能な環境で安心して学ぶことができます。
3.3. 不適切な対応:犬のサインを見逃さないで!
3.3.1. 無理やり目を合わせようとする
なぜNG?
犬にとって、直接的で持続的なアイコンタクトは、威嚇や挑戦と受け取られることがあります。犬が叱られている時などに目をそらすのは、「降参」「もうやめて」という服従やストレスのサイン(カーミングシグナル)であり、反抗ではありません[6]。無理に目を合わせようとすると、犬の恐怖や不快感をエスカレートさせてしまいます。
負の影響:
- 恐怖と不安の増大: 防御的な反応を引き出す可能性があります。
- 信頼関係の悪化: 犬の「もうやめて」というサインを無視することになるため、信頼を損ないます[7]。
どうすればいい?
犬のボディランゲージを理解し、尊重しましょう。目をそらしたら、それは犬からのコミュニケーションだと受け止めてください。
3.3.2. 恐怖心を煽る行動全般(覆いかぶさる、追い詰めるなど)
なぜNG?
犬を怖がらせて服従させようとする行為(犬の上に覆いかぶさる、追い詰める、威圧的な物を使うなど)は、たとえ直接的な体罰でなくても有害です[18]。
負の影響:
- 恐怖の関連付け: 飼い主さんやしつけの時間を怖いものと結びつけてしまいます。
- 回避行動や攻撃行動: 恐怖から逃げようとしたり、パニックになって噛みついたりする可能性があります[18]。
どうすればいい?
愛犬が安心して学べるように、ポジティブな経験を通じて自信を育むことが大切です。怖がりな子には、無理強いせず、専門家の指導のもと、少しずつ慣らしていくアプローチ(脱感作法や拮抗条件付け)が必要です[20, 21]。
4. 誤解されがちな訓練方法とその弊害
良かれと思って取り入れているしつけ方法が、実は犬にストレスを与えているかもしれません。
4.1. 食事前の「マテ」の誤用(過度な我慢の強要はNG)
なぜNG?
食事の前に犬を長時間待たせることは、一見「忍耐力を教えている」「飼い主の優位性を示している」ように思えるかもしれません。しかし、特に犬がソワソワしたり苦痛を感じたりしているのに無理強いすると、食事の時間に不安や欲求不満を生じさせ、フードアグレッッション(食べ物に対する攻撃性)や資源防衛(自分のものを守ろうとする行動)を引き起こす可能性があります[22]。
これは「マテ」のコマンドを教えているのではなく、犬にとって非常にストレスフルな「食事の禁止」になってしまうことがあります[22, 23]。
負の影響:
- 食事への不安・執着: 食べることに対して過剰に執着したり、不安を感じたりするようになります。
- フードアグレッッション: 食事を守ろうとして唸ったり、噛みつこうとしたりする行動に繋がる可能性があります。
- 「マテ」への悪いイメージ: 「マテ」という言葉自体を嫌なものと関連付けてしまう可能性があります。
どうすればいい?
「マテ」や「ステイ」は、食事とは別の落ち着いた状況で、ポジティブに教えましょう。食事の準備中に短時間、穏やかに待たせるのはOKですが、すぐに褒めて食事を与えてください[22]。
4.2. 噛んでいる物を無理やり取り上げる(「ちょうだい」を教えよう)
なぜNG?
犬が何かを噛んでいる時、特にそれが大切なもの(おもちゃなど)である場合、力ずくで取り上げようとすると、犬は「自分のものを奪われる!」と感じ、抵抗します[9]。
負の影響:
- 資源防衛・攻撃性: 大切なものを守ろうとして、唸ったり噛みついたりするようになる可能性があります[10]。
- 誤飲のリスク: 取られまいとして、慌てて飲み込んでしまう危険性があります[9]。
- 信頼関係の悪化: 飼い主さんの手を警戒するようになります。
- 「取られないようにするゲーム」と誤解: 行動を強化してしまうこともあります[9]。
どうすればいい?
無理やり取り上げるのではなく、「ちょうだい」や「放せ」というコマンドを、より価値の高いもの(おやつやお気に入りのおもちゃ)と交換する形で、ポジティブに教えましょう[9]。普段から、不適切なものを犬が口にできないように環境を整えることも重要です。
4.3. 要求吠えへの不適切な対応(吠えたら要求を聞くのはNG)
なぜNG?
犬が「遊んで!」「おやつちょうだい!」「散歩行きたい!」と吠えた時に、その要求に応えてしまうと、犬は「吠えれば言うことを聞いてもらえる!」と学習してしまいます[7]。叱ることも、犬にとっては「注目された」と認識され、逆効果になることがあります。
負の影響:
- 要求吠えの悪化・習慣化: ますます頻繁に、そして激しく吠えるようになります[7]。
どうすればいい?
要求吠えに対しては、完全に無視することが基本です(消去)。犬が吠えるのをやめて静かになった瞬間に、褒めたり要求に応えたりしましょう[7, 24]。また、普段から運動や遊び、コミュニケーションを十分にとり、犬の欲求を満たしてあげることで、要求吠えの動機を減らすことも大切です[25]。
4.4. 一貫性のない態度や甘やかしすぎ(「ボスは犬」はNG)
なぜNG?
明確なルールがなく、その時の気分で対応が変わったり、犬のわがままを何でも聞いてしまったりすると、犬は混乱し、飼い主さんをコントロールしようと学習する可能性があります[6]。
これは、時代遅れの「犬を支配する」という考え方とは異なります。犬は人間社会のルールを理解し、安心して暮らすために、明確で一貫したガイダンスを必要としています。
負の影響:
- 混乱と不安: 3.2.3で述べたように、犬は何を頼りにしていいか分からず不安になります[8]。
- 自制心の欠如: ルールを守ることを学ばず、わがままな行動が増える可能性があります[8, 9]。
- 欲求不満と攻撃性: 要求がすぐに通らないとイライラし、攻撃的に振る舞うことで要求を通そうとすることがあります[8]。
どうすればいい?
家庭内で一貫したルールを定め、家族全員で守りましょう[6]。犬が落ち着いて丁寧な行動を見せた時に褒め、要求がましい行動には応じないようにします。飼い主さんが、犬にとって頼りになり、予測可能で、慈愛に満ちたリーダーであることが大切です[8]。
5. 信頼関係と犬の福祉を根底から揺るがす行為
これらの行為は、犬の心と体の健康、そして何よりも飼い主さんとの信頼関係を深刻に傷つけます。
5.1. 叱ってばかりで褒めないしつけ(「ダメ」ばかりでは学べない)
なぜNG?
しつけが罰や修正ばかりで、良い行動を褒めることが少ないと、犬は何をしてはいけないかは分かっても、何をすれば良いのかを学ぶことができません。しつけの時間が、犬にとって苦痛でストレスフルなものになってしまいます[7]。
負の影響:
- ストレスと不安の増大: 常に叱られることを恐れ、ビクビクするようになります[7]。
- 学習意欲の低下: 何をしても褒められないと感じると、新しいことを学ぼうとする意欲が失われます[7]。
- 信頼関係の悪化: 飼い主さんが「嫌なことをする人」と関連付けられてしまいます。
どうすればいい?
「犬が良いことをしているのを見つけて褒める」ことを意識しましょう[7]。褒め言葉、おやつ、遊びなどを使って、望ましい行動を積極的に強化します。もし修正が必要な場合でも、それは最小限にし、必ず「こうすれば良いんだよ」という代替行動を教えることとセットで行いましょう[10]。
5.2. 犬の性格や状態を無視した過度な連れ出し(無理強いは禁物)
なぜNG?
社会化は大切ですが、内気な子、怖がりな子、高齢の子、体調が優れない子などを、無理やり苦手な場所や賑やかな環境に連れ出すことは、犬にとって大きなストレスになります[8]。
負の影響:
- 恐怖心の悪化: さらに怖がりになり、外出自体を嫌がるようになる可能性があります[8]。
- ストレスによる体調不良: ストレスが原因で体調を崩すこともあります。
- 回避行動や反応性の増大: 苦手な状況から逃げようとしたり、過剰に反応したりするようになることがあります。
どうすればいい?
愛犬の性格、年齢、体調をよく観察し、その子に合ったペースで社会化を進めましょう。新しい環境や人、他の犬との接触は、少しずつ、そして必ずポジティブな経験(おやつをもらえた、優しく撫でてもらえたなど)と結びつけることが大切です[8, 21]。
5.3. 罰への依存とそのエスカレーション(負のスパイラル)
なぜNG?
2.1で触れた「罰の罠」のように、罰に頼るしつけをしていると、犬が罰に慣れてしまったり、恐怖や不安から問題行動が悪化したりすることで、飼い主さんはさらに厳しい罰を使わないと効果がないと感じるようになることがあります[11]。
負の影響:
- 罰の悪循環: 一時的な効果しか得られず、根本的な問題は解決しません[14]。
- 深刻な心身へのダメージ: 罰がエスカレートすると、犬に深刻な身体的・精神的苦痛を与え、虐待に繋がる危険性があります[11, 14]。
- 信頼関係の完全な崩壊: 犬は飼い主さんを恐怖と痛みの対象としてしか見なくなります[11, 14]。
どうすればいい?
もし罰に頼るしつけをしてしまっているなら、勇気を出してそのサイクルを断ち切り、陽性強化を基本とした方法に切り替えましょう。問題行動が深刻な場合は、一人で抱え込まず、獣医行動診療科医や認定ドッグトレーナーなど、科学的根拠に基づいたポジティブな手法を用いる専門家の助けを求めることが賢明です[1]。
6. 目指すべきはコレ!ポジティブな関係構築のためのアプローチ
では、NGなしつけを避け、愛犬とのより良い関係を築くためには、どのようなアプローチが推奨されるのでしょうか?
6.1. 罰に頼らないしつけの重要性
これまで見てきたように、罰に基づくしつけは多くのデメリットを伴い、犬の福祉を損なう可能性があります[2]。科学的根拠に基づいた現代のしつけは、罰ではなく、褒めて教える「陽性強化」が中心です。
日本獣医動物行動研究会などの専門機関も、罰則的なアプローチではなく、動物福祉に配慮した効果的で持続可能な方法を推奨しています[2]。
また、望ましくない行動がそもそも起こらないように、犬の環境を適切に管理することも非常に重要です(例:危険なものを犬の届く場所に置かない[9]、拾い食いを防ぐために散歩コースを工夫する[33]など)。
6.2. 「褒めるしつけ」(陽性強化)の基本と注意点
陽性強化とは?
陽性強化(正の強化とも言います)とは、犬が望ましい行動をした直後に、犬が喜ぶもの(おやつ、褒め言葉、おもちゃ、遊びなど)を与えることで、その行動が将来もっと増えるように促す方法です[4]。
なぜ効果的なの?
- ポジティブな関連付け: 学習することや飼い主さんに対して良いイメージを持ちます。
- 自発的な行動: 犬が喜んで正しい行動をするようになります。
- 絆の強化: ポジティブなやり取りを通じて、飼い主さんとの絆が深まります[4]。
- 明確な指示: 何をすれば良いのかを犬に分かりやすく教えることができます。
効果的な褒め方・陽性強化のポイント:
- タイミングが命!: 褒美は、望ましい行動の直後(1~2秒以内)に与えましょう[17, 41]。
- 犬が本当に喜ぶ褒美を: おやつ、特定のおもちゃ、褒め言葉、撫でられることなど、愛犬が本当に価値を感じるものを選びましょう[24]。
- 明確さと一貫性: 分かりやすい合図(コマンド)を使い、一貫して褒めましょう。
- おやつへの依存を避ける: 行動を覚えたら、おやつの頻度を少しずつ減らし、褒め言葉や他のご褒美も活用しましょう[41, 42, 45]。
陽性強化の誤解と注意点:
- タイミングのズレ: 遅すぎる褒美は、意図しない行動を強化してしまうことがあります[40, 43]。
- 「おやつがないと言うことを聞かない」問題: これは、おやつを見せてから行動させる「賄賂」になっている可能性があります。正しくは、行動の後に褒美を与えることです[42]。
- 価値の低い褒美: その時の犬の気分や状況に合わない褒美では、効果が薄いです。
- 環境設定の重要性: 気が散る環境や、問題行動が起きやすい状況でいきなり陽性強化を試みても上手くいきません。まずは環境を整えましょう[39]。
- 根本的な感情への配慮: 深刻な恐怖や不安を抱えている犬の場合、陽性強化によるトレーニングと並行して、それらの感情的な問題に対処する必要があります(専門家の助けが必要な場合もあります)[20]。
陽性強化は、「ただ優しくする」「おやつをあげる」ということではありません。行動科学に基づいた、効果的な学習方法なのです[35]。もし「うちの子には陽性強化が効かない」と感じる場合は、やり方やタイミング、褒美の種類、環境設定などを見直してみましょう。
7. まとめ:愛犬が安心して学べる、信頼と愛情に満ちた環境を
愛犬との生活は、私たちに計り知れない喜びと癒しを与えてくれます。そのかけがえのないパートナーとの絆をより深め、共に幸せに暮らすためには、正しい知識に基づいたしつけが不可欠です。
本稿では、犬のしつけにおいて絶対に避けるべきNG行動と、その理由、そして愛犬の心身に与える影響について詳しく解説しました。体罰や威圧的な態度はもちろんのこと、良かれと思って行っている日常的な接し方の中にも、実は愛犬を混乱させ、信頼関係を損なう落とし穴が潜んでいることをご理解いただけたでしょうか。
大切なのは、愛犬の気持ちに寄り添い、犬という動物の習性やコミュニケーション方法を理解しようと努めることです。 罰ではなく、褒めて教える「陽性強化」を基本とし、一貫性のある、愛情深い態度で接することで、愛犬は安心して新しいことを学び、あなたを心から信頼するようになるでしょう。
しつけは、忍耐と理解、そして何よりも愛情を必要とする、長い道のりかもしれません[5]。もし、うまくいかないと感じたり、愛犬の行動に悩んだりした場合は、決して一人で抱え込まず、科学的根拠に基づいた陽性的な手法を用いる獣医行動診療科医や認定ドッグトレーナーなどの専門家に相談することも考えてみてください[1]。
最終的に、犬のしつけは、飼い主さんと愛犬双方にとって楽しく、実り多い経験であるべきです。この記事が、あなたが愛犬とのより豊かで幸せな関係を築くための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
引用文献
本記事の作成にあたり、以下の情報を参考にしました。(URLは提供情報に基づき記載)
[1] 犬の問題行動が起こる理由【犬のしつけ】 – YouTube, https://m.youtube.com/watch?v=X4zbIBCojO8
[2] 体罰に関する声明文発表について | 日本獣医動物行動学会, https://vbm.jp/seimei/85/
[4] awamiz.com (陽性強化について), https://awamiz.com/shop/information/training_001
[5] 犬に絶対NGな『飼い主の態度』4選 愛犬との信頼関係が崩壊する最悪な行動とは?, https://article.yahoo.co.jp/detail/3eba13beb97e6d1bdb61f227b46b693e81f17687
[6] 【経験者が伝授】保護犬と信頼関係ができる接し方のポイントを徹底解説 | mylio, https://mylio.work/point-protection-dog/
[7] 犬のしつけで絶対にしてはいけない8のコト! | NEWSCAST, https://newscast.jp/news/0858068
[8] 犬の性格に悪影響を与えてしまう飼い主のNG行動5選【獣医師監修 …, https://magazine.cainz.com/wanqol/articles/personality_06
[9] 犬にやってはいけない5つのこととは?【獣医師が解説】 | アニポス公式ブログ, https://blog.anipos.co.jp/training/dog-not-action/
[10] 【トレーナー監修】愛犬のしつけの注意点・NG例、よくある失敗例も – イヌトレ, https://inu-tre.com/column/1064/
[11] なぜ体罰を勧めない専門家が増えてきているのか – Life with My Dog, https://dogtoclass.com/?original=%E3%81%AA%E3%81%9C%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AE%B6%E3%81%AF%E3%80%80%E7%BD%B0%E3%82%92%E4%BD%BF%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B
[13] vbm.jp (体罰の具体例 PDF), https://vbm.jp/wp-content/uploads/2018/03/S1.pdf
[14] ドッグトレーニングに「罰」は必要? キャナップ犬のようちえん, https://canup.dog/2024/10/13/post-333/
[17] 【ペットの犬のしつけ方】コツやポイントを犬のスペシャリストに …, https://www.chintai.net/news/42133/
[18] 犬のしつけ方法を原因別に解説!吠えたり、噛んだりする際の対処 …, https://www.au-sonpo.co.jp/pc/pet-dog/column/post-23.html
[20] 【犬編】第1回:恐怖症|困った行動の解決方法 | 共立製薬株式会社, https://www.kyoritsuseiyaku.co.jp/owner/knowledge/solution/dog1.html
[21] 犬が恐怖や緊張を感じているとき、安心させるためにできること – いぬのきもち, https://dog.benesse.ne.jp/withdog/content/?id=117184
[22] 【ドッグトレーナー推奨】現代の犬のしつけの必要性と最新の考え方, https://plc-symbiosis.com/think/
[23] ドッグトレーナーが勧める犬に教えた方が良いこと7選, https://www.pet-service-mofmof.com/post/%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%8C%E5%8B%A7%E3%82%81%E3%82%8B%E6%95%99%E3%81%88%E3%81%9F%E6%96%B9%E3%81%8C%E8%89%AF%E3%81%84%E3%80%81%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%917%E9%81%B8
[24] 【獣医師監修】簡単にできる犬のしつけ方 効果的なしつけの順番についても解説 – MyBESTiee, https://mybestiee.jp/blogs/blogs/how-to-discipline-dog
[25] 無駄吠えが止まる!成功率が高いしつけのポイントとは? – ホームトリマー, https://hometrimmer.net/%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E7%8A%AC%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%8C%E3%81%93%E3%82%8C/%E7%84%A1%E9%A7%84%E5%90%A0%E3%81%88%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%91/
[31] vbm.jp (5つの自由 PDF), https://vbm.jp/wp-content/uploads/2018/03/S3.pdf
[33] 犬の拾い食いをやめさせるコツやしつけ方法とは | GREEN DOG & CAT公式通販, https://www.green-dog.com/feature/dog/training/12179.html
[35] 陽性強化という言葉が使われなくなった理由 | コンピス, https://www.kompis.jp/archive/3979/
[39] なぜ、”優しい”だけでは、犬の噛みつきが収まらないのか?, https://tomo-iki.jp/shiba-problem/5095
[40] 犬の陽性強化トレーニング|ヒルズペット, https://www.hills.co.jp/dog-care/training/positive-reinforcement-dog-training
[41] 犬の褒め方は一つじゃない?信頼関係の構築にも効果的な褒め …, https://flowens.jp/praise/
[42] 【専門家が解説】犬の「おすわり」の教え方&できないときの解決策 – いぬのきもち, https://dog.benesse.ne.jp/withdog/content/?id=13597
[43] オペラント条件づけにおける行動随伴性(正の強化/弱化, https://www.pet-mafamille.com/behavioral-concomitants-in-operant-conditioning/
[45] 犬好き必見!健康のためにおやつをあげる習慣を始めませんか? | NEWSCAST, https://newscast.jp/news/6784482
(上記以外の引用文献番号も、提供された情報リストに対応しています。)
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