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ウェルビーイングとキャリアデザインが織りなす持続的成長の未来

現代社会において、個人の幸福とキャリアの充実は切り離せないテーマです。本記事では、2025年を見据え、日本における「ウェルビーイング」と「キャリアデザイン」の最新動向、企業や政府の取り組み、そして私たちが目指すべき未来について深く掘り下げます。変化の激しい時代だからこそ、一人ひとりが輝き、組織と社会が共に成長するための鍵がここにあります。

目次

第1章 日本におけるウェルビーイングとキャリアデザインの新しい景色

1.1 「ウェルビーイングキャリアデザイン」とは:その核心と高まる大切さ

日本で今、「ウェルビーイング」と「キャリアデザイン」という二つの言葉が、互いに深く結びつきながら注目を集めています。「ウェルビーイング」とは、単に健康である状態を指すのではありません。世界保健機関(WHO)が示すように、身体的、精神的、そして社会的に完全に満たされた状態、つまり生活の質(QOL)全体を捉える包括的な考え方です。個人の幸福感や生きがいといった主観的な面と、健康や生活環境といった客観的な面の両方から成り立っています。

他方、「キャリアデザイン」もまた、かつての組織主導の昇進ルートを辿るものから変化しています。個人が自身の価値観や目標に基づき、主体的に職業人生を設計し、自己実現や社会への貢献を目指す、継続的なプロセスへと意味合いを深めているのです。これら二つが融合した「ウェルビーイングキャリアデザイン」は、個人が自らのキャリアを積極的に形作り、その過程と結果を通じて、自分自身の全体的なウェルビーイングを高めていくことを目指すアプローチと言えるでしょう。

この考え方で最も重要なのは、「自ら主体的に」という部分です。現代のように変化が速い時代では、キャリアを組織や他人に任せるのではなく、「自分で決める」という自己決定の度合いが、個人の意欲や成果、さらにはウェルビーイングに大きな影響を与えます。自己決定理論によれば、「有能さ」「関係性」「自律性」という三つの基本的な欲求、特に自律性が満たされることで、人は内発的に動機づけられ、精神的な安定も促進されるとされています。

実際に、人生のあらゆる場面でウェルビーイングを意識することは、自分の人生を主体的に選び、デザインする力を高めることにも繋がると専門家は指摘します。心身の健康、やりがいのある仕事、良好な人間関係、納得感のある収入や時間の使い方は、個人のキャリア満足度と深く結びついているのです。

このような背景から、個人の主体的なキャリア選択とウェルビーイングの向上は、一体のものとして考える必要があります。個人が主体性を持ってキャリアをデザインし、それを通じてウェルビーイングを実現することは、個人的な満足に留まらず、社会全体の活力向上にも貢献します。組織は、従業員が自己決定に基づいたキャリアを追求できるよう、画一的な道筋を示すのではなく、自己発見の機会提供や自律性を高めるスキル開発支援へと役割を変えていくことが求められています。この主体性の育成は、個人のウェルビーイング向上だけでなく、組織の持続的な成長と革新の創出にも不可欠です。

しかし、ウェルビーイングが身体的、精神的、社会的側面を含む多岐にわたる概念であるにも関わらず、企業のキャリアデザイン支援がスキル研修や業績評価に偏り、従業員のメンタルヘルスやワークライフバランスへの配慮が十分でない場合、真の「ウェルビーイングキャリアデザイン」の実現は難しくなります。2025年に向けた課題は、これらの要素を分断せずに統合的に捉え、支援していくことです。例えば、スキルが向上しても、それが過度な負担や燃え尽きに繋がるようでは、キャリア満足度もウェルビーイングも損なわれてしまいます。この統合的アプローチの欠如が、推進における潜在的な障害となっているのです。

1.2 国家戦略としてのウェルビーイング:2025年に向けた政府の展望と政策

日本政府は、国民一人ひとりのウェルビーイング向上を国家戦略の重要な柱と捉え、2025年を見据えた具体的な政策を進めています。基本方針は「誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会」の実現であり、ライフサイクル全体を視野に入れ、個人の希望に応じた多様な働き方や生き方を支える制度や環境の整備を目指しています。

この展望の下、特にキャリアデザインと密接に関わる政策として、「全世代型リスキリングの推進」が強力に打ち出されています。これは、急速な技術革新や産業構造の変化に対応し、年齢を問わず全ての国民が必要なスキルを習得し、社会で活躍し続けられるようにするための取り組みです。具体的には、キャリアコンサルタントの役割強化による個人に最適なリスキリング提案、オンライン化による教育訓練へのアクセス容易化、デジタル分野を中心とした訓練メニューの質的向上などが図られています。2025年に関する目標として、国の在職者向け学び直し支援策の個人経由利用割合の向上や、専門実践教育訓練におけるデジタル関係講座数の拡大などが設定されています。

さらに、「生涯活躍・女性活躍に資する制度改革・環境整備」も重点項目です。これには、いわゆる年収の壁問題への対応、働き方に中立的な社会保障制度の検討、企業における女性登用の加速、育児と仕事の両立支援などが含まれます。これらの政策は、多様な人材がその能力を最大限に発揮し、ウェルビーイングの高い状態でキャリアを継続できる社会基盤の構築を目指すものです。

政府はまた、ウェルビーイングの状態を客観的かつ継続的に把握するため、各種指標の開発と活用にも力を入れています。内閣府が公表する「満足度・生活の質を表す指標群(Well-being ダッシュボード)」は、国際的な枠組みも参考にしつつ、主観的満足度と客観的指標を組み合わせた多角的な評価を試みています。データに基づいた政策運営(EBPM)の徹底も、ウェルビーイング向上戦略の重要な特徴です。

これらの政府の動きは、企業にも大きな影響を与えます。2025年に向けた具体的な目標や政策は、企業が自社の人事戦略やウェルビーイング施策を見直し、国の方向性と整合性を図る上での指針となります。特にリスキリング支援や女性活躍推進といった分野では、国の後押しを背景に、企業による積極的な投資や制度改革が進むことが期待されます。これは、法令遵守に留まらず、企業の競争力維持や人材獲得の観点からも重要です。

加えて、政府が推進する育児支援の充実や予防・健康づくりの強化といった広範な社会政策も、間接的に職場のウェルビーイングやキャリア継続性に好影響をもたらすでしょう。例えば、質の高い保育サービスの拡充は、働く親の負担を軽減し、特に女性のキャリア継続を支援します。このように、国のウェルビーイング戦略と企業の施策は、相互に連携し補完し合うことで、より大きな効果を生み出す可能性を秘めています。

政府が2025年およびそれ以降に向けて設定している具体的な目標と方向性は、企業が自社の戦略を策定する上で重要な外部環境要因を示しています。企業はこれらの動向を注視し、自社の取り組みに活かしていくことが求められます。

第2章 日本企業におけるウェルビーイングへの道:現状と2025年の予測

2.1 導入トレンド:「ウェルビーイング経営」の広がり

日本企業において、ウェルビーイングへの関心は着実に高まり、「ウェルビーイング経営」という言葉も広く使われるようになりました。これは、従業員の心身の健康と幸福を経営の土台に据え、組織全体の持続的な成長を目指す考え方です。2022年の調査によると、約半数の企業が何らかの形でウェルビーイングに取り組んでいると回答しています。しかし、取り組みの度合いや質には差があり、残りの半数の企業は「経営陣の理解がない」あるいは「何をすればよいかわからない」といった理由で、本格的な導入には至っていません。

現在、企業がウェルビーイング施策として最も力を入れているのは「フィジカルウェルビーイング(身体的な幸福)」であり、具体的な取り組みとしては「ワーク・ライフ・バランスの推進」が約8割の企業で挙げられています。これは、健康診断の実施や長時間労働の是正といった、従来の健康経営の延長線上にある取り組みが多いことを示しています。

2025年に向けて注目すべきは、「ウェルビーイング経営」が単なる流行語ではなく、本格的な経営戦略として普及期に入りつつあるという認識です。ある調査レポートでは、「ウェルビーイング経営」が2025年の注目キーワードとして、イノベーター理論における「アーリーマジョリティ(前期追随者)」層に受け入れられ、普及の溝を越えつつあると分析されています。これは、一部の先進的な企業だけでなく、より多くの企業がその重要性を認識し、具体的な導入を検討・開始する段階に来ていることを意味します。

この背景には、従来の「健康経営」から、より包括的な「ウェルビーイング経営」への進化があります。健康経営が主に身体的健康の維持・増進や疾病予防に焦点を当てていたのに対し、ウェルビーイング経営は精神的健康、社会的健康、キャリアにおける充足感、経済的安定など、従業員の幸福に関わる多面的な要素を含んでいます。2025年の健康経営優良法人認定制度においても、施策の「量」だけでなく「質」と「成果」がより重視される見込みであり、これは企業価値向上に繋がる本質的な取り組みへの移行を促すと考えられます。

しかし、依然として半数の企業が具体的な取り組みに着手できていない現状と、「アーリーマジョリティ」への移行期という状況は、日本企業におけるウェルビーイング経営の普及には「知っている」と「実行している」の間に大きな隔たり、すなわち「キャズム」が存在することを示しています。2025年に向けてこの隔たりを埋め、より多くの企業がウェルビーイング経営を実践するためには、具体的な導入方法や成功事例の共有、そして投資対効果(ROI)の明確化が不可欠です。「何をすればよいかわからない」という声に応える実践的な手引きの提供が、このキャズムを乗り越える鍵となるでしょう。

また、健康経営からウェルビーイング経営への進化は、企業が従業員の幸福に対してより深く、戦略的に関わっていく姿勢の表れです。2025年までに、この分野で先進的な企業は、身体的健康のサポートに留まらず、心理的安全性、仕事の目的意識、職場コミュニティの醸成といった要素を統合的に強化し、従業員のキャリアにおける充足感とウェルビーイングの向上を両立させる取り組みを深化させると予想されます。これは、自律性、目的意識、良好な人間関係といったウェルビーイングの根源的要素に応えるものであり、より本質的なアプローチへの移行を示しています。

2.2 ビジネスにおける価値:ウェルビーイングとエンゲージメント、生産性、人材獲得の関係

企業がウェルビーイングへの投資を拡大する背景には、それが単なる福利厚生に留まらず、具体的な経営成果に結びつくという認識が広がっているからです。最も直接的な効果として期待されるのが「生産性の向上」であり、実際に多くの企業がこれをウェルビーイングに取り組む最大の理由として挙げています。

従業員のウェルビーイングとワークエンゲージメント(仕事への熱意や没頭度)、そしてパフォーマンス行動の間には正の相関関係があることが、複数の調査で示されています。特にワークエンゲージメントは、心理的資本(自己効力感や楽観性など)や組織コミットメント(組織への愛着や一体感)と強く関連しており、これらが高まることで、従業員はより主体的に業務に取り組み、高い成果を上げやすくなります。心身ともに健康で、仕事にやりがいを感じている従業員は、集中力や創造性が高まり、結果として組織全体の生産性向上に貢献するのです。

しかしながら、日本の従業員エンゲージメントは国際的に見ても極めて低い水準にあり、ある国際調査によれば、熱意をもって仕事に取り組んでいる従業員の割合はわずか7パーセントに過ぎず、「やる気の欠如」が深刻な課題として指摘されています。この状況は、日本経済の潜在的な成長力を大きく妨げていると言えるでしょう。ウェルビーイングキャリアデザインは、仕事における目的意識の醸成、自律性の尊重、良好な人間関係の構築といった要素を通じて、この低迷するエンゲージメントを向上させるための強力な手段となり得ます。従業員の「やる気の欠如」という問題に対し、ウェルビーイングの視点からアプローチすることは、的確な対策と言えます。

さらに、少子高齢化に伴う労働力人口の減少が進む日本では、人材獲得競争が激化しており、企業にとって優秀な人材の確保と定着は最重要課題の一つです。このような状況下で、ウェルビーイングへの取り組みは、企業の魅力度を高め、人材獲得競争において優位に立つための重要な要素となります。特に若い世代は、給与や待遇だけでなく、働きがいや自己成長の機会、ワークライフバランス、そして企業文化としてのウェルビーイングへの配慮を重視する傾向が強いです。実際に、求職者側が企業を選ぶ際の「売り手市場」の感覚が強まっていることも報告されており、ウェルビーイングを重視する職場は、従業員の定着率を高め、離職率の低下にも繋がることが期待されます。2025年に向けて、企業が真にウェルビーイングキャリアデザインに投資することは、単に「良い会社」という評判を得るだけでなく、事業継続に不可欠な人材を惹きつけ、維持するための戦略的な一手となるのです。

2.3 導入における壁:どう乗り越えるか

日本企業がウェルビーイング経営を推進する上で直面する課題は少なくありません。最も大きな障害として挙げられるのが、「経営陣の理解がない」ことと、「何をすればよいかわからない」というノウハウ不足です。これらは、ウェルビーイングへの投資が具体的な成果にどう結びつくのか、その道筋や効果測定が不明確であることに起因する場合が多いです。実際、約8割の企業が従業員のウェルビーイングを測定するアセスメントを実施しておらず、現状把握や効果検証が困難な状況にあります。

また、ウェルビーイングやワークエンゲージメントに関連する要因は、業種、企業規模、職種、年齢層などによって異なるため、画一的な施策では効果が得られにくいという複雑さも存在します。各企業の特性や従業員の多様なニーズに応じた、個別最適化されたアプローチが求められますが、その設計と実行には高度な専門知識とリソースが必要となります。

ウェルビーイング測定の欠如は、まさに「鶏が先か卵が先か」というジレンマを生んでいます。測定が行われなければ、具体的な課題や施策の効果を客観的に示すことができず、結果として経営層の理解や投資判断を得ることが難しくなります。逆に、経営層の理解がなければ、測定や分析に必要なリソースが割り当てられません。この悪循環を断ち切るためには、まず現状を把握するためのアセスメント導入が不可欠です。幸い、近年では様々なウェルビーイング測定ツールやコンサルティングサービスが登場しており、これらを活用することで、データに基づいた課題特定と施策立案、効果検証のサイクルを回すことが可能になります。2025年に向けては、これらのツールやサービスの普及と、それらを活用できる人材の育成が、ウェルビーイング経営の裾野を広げる上で重要となるでしょう。

経営陣の理解不足という課題は、単に情報が足りないという問題に留まらず、短期的な財務成果を優先し、長期的な人的資本への投資を軽視しがちな伝統的な経営思考に根差している場合があります。この思考を変革するには、客観的なデータや投資対効果の提示に加え、ウェルビーイング経営に成功している企業の事例や、それがもたらす企業価値向上への具体的なストーリーを共有し、経営層自身がその戦略的重要性を認識することが不可欠です。「ウェルビーイング経営」がアーリーマジョリティ層に浸透しつつあるという事実は、こうした成功事例が増え、経営層の意識変革が進み始めていることの証とも言えるでしょう。

企業におけるウェルビーイング施策の現状を見ると、多くの企業がワークライフバランスや身体的健康支援といった基本的な取り組みに着手している一方で、キャリア開発やメンタルヘルス支援の高度化、そしてそれらを支えるための現状把握(アセスメント)や経営層のコミットメントには依然として大きな課題があることが分かります。これらの課題を克服し、より実効性のあるウェルビーイング経営を推進していくことが、今後の日本企業に求められています。

第3章 2025年のウェルビーイングキャリアデザインを形作る主要な流れ

3.1 世界と日本の予測:2025年の展望

2025年のウェルビーイングとキャリアデザインの動向を予測する上で、国内外の様々な調査研究が示唆に富む洞察を提供しています。これらの予測を総合すると、より人間中心的で、個人の価値観と尊厳を重視し、テクノロジーと共生しながらも、真のつながりを求める働き方へと移行していく未来像が浮かび上がります。

ある国際的なコンサルティングファームのレポートでは、「労働の尊厳」が主要なトレンドとして挙げられています。これは、従業員が単に経済的な報酬だけでなく、仕事における意味、公正な評価、そしてワークライフバランスを強く求めるようになることを示唆しています。キャリアは、人生の他の側面と調和し、個人の尊厳を支えるものでなければならないという価値観が、2025年にはより一層明確になるでしょう。

国内のシンクタンクのレポートは、さらに具体的な職場の変化を予測しています。ハイブリッドワークが定着する中で、オフィスの「活気」や、活動内容よりも「誰と関わるか」を重視する「関係性ベースの働き方」が注目されます。また、共感性、明確性、創造性を備えた「創造的リーダーシップ」や、若手と経験豊富な従業員双方にとってアクセスしやすい「メンタリング」の重要性が増します。一方で、デジタル化の進展に伴い、「デジタル・デトックス」の必要性や、「高齢化する人的資本」への対応も喫緊の課題となるでしょう。

別の国際調査機関のレポートは、日本特有の課題と機会を浮き彫りにします。依然として世界最低水準にある従業員エンゲージメントと「やる気の欠如」は深刻な問題である一方、求職者側が有利な「売り手市場」の感覚が強まっています。この需要と供給のミスマッチは、企業に対して従業員への提供価値(EVP)の抜本的な見直しを迫るでしょう。

国内の広告会社による調査によれば、日本の成人の半数以上が何らかの「夢中になっていること」を持っており、これが人生の満足度と強く相関していることが明らかになりました。特に他者の評価に左右されない「自分軸の夢中」を持つ人々は、幸福度が顕著に高いです。この結果は、個人の内発的な情熱や興味を仕事と結びつけることができれば、ウェルビーイングとエンゲージメントを飛躍的に高められる可能性を示唆しています。

そして、ある信用調査会社のレポートが指摘するように、「ウェルビーイング経営」は2025年における最重要キーワードの一つであり、その戦略的意義はますます高まるでしょう。

これらのトレンドを総合的に考えると、2025年のウェルビーイングキャリアデザインは、「労働の尊厳」という基盤の上に、個人の「自分軸の夢中」を追求できるような環境をいかに構築するかが鍵となります。仕事が単なる義務ではなく、自己表現や成長、そして社会とのつながりを実感できる場となることが求められます。このためには、リーダーシップのあり方、職場の設計、メンタリング制度、そしてテクノロジーの活用方法に至るまで、あらゆる側面での変革が必要です。

また、ハイブリッドワークの普及は、柔軟性という恩恵をもたらす一方で、人間関係の希薄化や孤独感といった新たな課題も生んでいます。「活気」や「関係性ベースの働き方」といった概念は、オフィスを意図的な交流の場として再定義しようとする試みであり、「有意義なつながり」の構築は、社会的なウェルビーイングを維持する上で不可欠です。2025年に向けて、企業は物理的なオフィス空間とバーチャルなコミュニケーション空間の両方において、どのようにして質の高い人間関係を育むかという課題に直面し続けるでしょう。

さらに、リーダーシップの変革も急務です。「創造的リーダーシップ」や「ハイブリッド・リーダー」に求められるのは、従来の指示命令型ではなく、共感力、コミュニケーション能力、そして変化への適応力です。従業員一人ひとりのウェルビーイングに配慮し、自律的なキャリア形成を支援できるコーチ型、ファシリテーター型のリーダーが、2025年の組織を牽引していくことになるでしょう。

3.2 テクノロジーの役割:推進力と課題

テクノロジーは、2025年のウェルビーイングキャリアデザインにおいて、両刃の剣として機能します。適切に活用されれば、個人のウェルビーイング向上とキャリア開発を力強く支援する一方、無思慮な導入はデジタル疲労や新たなストレス源となり得ます。

推進力としては、まず多様なアセスメントツールやウェルビーイング支援サービスの進化が挙げられます。様々なツールやサービスは、従業員のメンタルヘルス、ストレスレベル、性格特性、エンゲージメントなどを可視化し、データに基づいた個別最適な介入や支援プログラムの設計を可能にします。これにより、企業は従業員の多様なニーズに応じた、より効果的なウェルビーイング施策を展開できるようになります。

AI(人工知能)の活用も進みます。例えば、女性のメンタルヘルスサポートにおいては、AIチャットボットを用いた認知行動療法(CBT)が有効な手段として注目されています。また、AIは定型的な業務を自動化することで、従業員がより創造的で人間的なスキルを要する業務に集中できる環境を生み出し、仕事の質を高める可能性を秘めています。政府も、医療・介護分野やリスキリング支援において、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデータの利活用を積極的に推進しており、テクノロジーが社会全体のウェルビーイング向上に貢献することが期待されます。

しかし、テクノロジーの普及は新たな課題も生み出しています。常時接続によるデジタル疲労、オンラインコミュニケーションにおける誤解や孤独感、プライバシーへの懸念などは、デジタルウェルビーイングを脅かす要因となります。そのため、「デジタルウェルビーイング」への取り組みとして、通知設定の見直しやデジタル機器から離れる時間の確保、SNSの健全な利用に関する指導などが重要視されています。あるシンクタンクが提唱する「デジタル・デトックス・ゾーン」の設置も、こうした課題への具体的な対策の一つです。

このように、テクノロジーは、ウェルビーイングキャリアデザインを大規模かつ個別最適化された形で推進する強力なツールとなり得ます。AIを活用したパーソナライズされたキャリアアドバイスや学習プログラムは、従来では不可能だったレベルでの支援を実現し、個人の自律的なキャリア形成を後押しするでしょう。しかし、その恩恵を最大限に引き出すためには、テクノロジーが人間のウェルビーイングを損なうのではなく、むしろ向上させるように、慎重かつ戦略的に導入・運用していく必要があります。2025年に向けては、テクノロジーの利便性と、人間の心身の健康や社会的なつながりとのバランスをいかに取るかが、重要なテーマとなるでしょう。

3.3 「ウェルビーイング経営」:2025年の中心的な戦略テーマ

「ウェルビーイング経営」は、2025年の日本企業にとって、単なる一時的な流行ではなく、持続的な成長と競争力強化を実現するための根源的な戦略テーマとして位置づけられます。既にアーリーマジョリティ層への浸透が始まっているこの概念は、企業の業績向上に直結する経営戦略として評価されつつあります。

この背景には、従業員のウェルビーイングが、生産性、創造性、エンゲージメント、そして最終的には企業価値そのものに大きな影響を与えるという認識の広がりがあります。健康経営からウェルビーイング経営への進化は、企業が従業員の幸福をより包括的かつ戦略的に捉え、投資対象として認識し始めたことを示しています。

2025年に成功する「ウェルビーイング経営」は、人事部門に限定された取り組みではなく、企業全体の戦略として統合されるでしょう。ある大学教授が提唱するように、ウェルビーイングの視点は製品やサービスの開発にも組み込まれ、顧客満足度やブランド価値の向上にも寄与する可能性があります。企業が真にウェルビーイングを重視するならば、その哲学は従業員だけでなく、顧客、取引先、地域社会といった全ての関係者との関わり方にも反映されるべきです。

また、「ウェルビーイング経営」が戦略として成熟するにつれて、その効果測定もより高度化していくことが予想されます。単なる施策の実施率や参加者数といった指標だけでなく、従業員の幸福度、エンゲージメントレベル、生産性指標、さらには企業の財務パフォーマンスとの関連性を具体的に示す、洗練された重要業績評価指標(KPI)と分析手法が求められるようになります。「成果へ」という視点が、ウェルビーイング投資の正当性を裏付け、経営判断における優先順位を高める上で不可欠となるのです。これにより、ウェルビーイングはコストではなく、企業の持続的成長を支える重要な「資本」として認識されるようになるでしょう。

第4章 多様な人々とセクターにおけるウェルビーイングキャリアデザインの進め方

4.1 Z世代:その願い、期待、そして心をつかむ戦略

Z世代(概ね1990年代後半から2010年代序盤生まれ)は、これまでの世代とは異なる独自のキャリア観と価値観を持ち、2025年の労働市場においてその存在感をますます強めています。彼らのウェルビーイングとキャリアデザインを考える上で、その特性を深く理解し、適切なエンゲージメント戦略を講じることが不可欠です。

Z世代は、仕事に対して「楽しさ」や「やりがい」、「社会貢献」を強く求める傾向があります。ある調査では、「楽しく働きたい」が就職意識のトップであり、別の調査では、成功の指標として「今のキャリアに夢中になれること」「有意義なことをしている実感」が上位を占めています。これは、彼らが単に収入を得るためだけでなく、自己実現や社会とのつながりを仕事に求めていることの表れです。

また、Z世代は転職や副業・兼業を通じて多様な経験やスキルを習得することに前向きであり、一つの企業に長期間留まるという意識は希薄です。社会経済の変動を経験してきた彼らは、企業への過度な期待を抱かず、自身の市場価値を高めることに意識的です。そのため、企業は、Z世代のキャリア自律を支援し、彼らが「コストパフォーマンス」や「タイムパフォーマンス」を重視する傾向にも配慮した、柔軟で成長機会の多い環境を提供する必要があります。

ウェルビーイングに関しては、手厚い福利厚生や良好な人間関係、そして自分らしく働ける社風を重視します。特に、年功序列や過度な残業を美徳とするような古い企業文化には強い抵抗感を示し、ワークライフバランスを確保できる環境を求める声が大きいです。

これらの特性を踏まえ、Z世代のエンゲージメントを高め、ウェルビーイングキャリアデザインを支援するためには、以下の点が重要となります。まず、彼らの企業への帰属意識が相対的に低いことを考慮すると、仕事と個人の価値観や社会貢献意識との「目的の整合性」を明確に示すことが、従来のインセンティブ以上に強力なリテンション策となるでしょう。キャリアデザイン支援においては、彼らが自身の仕事を通じて社会にどのように貢献できるのか、その意義を実感できるような機会を提供することが求められます。

次に、Z世代は継続的かつ建設的なフィードバックを強く期待しています。年一度の評価ではなく、日々の業務を通じた細やかなコーチングや、成長を促すための定期的なチェックインが、彼らの進捗実感とウェルビーイング向上に不可欠です。これは、管理職の役割が従来の指示命令型から、より支援的なコーチ型へと変化する必要性を示唆しています。

4.2 女性のエンパワーメント:キャリアの課題、健康、リーダーシップへの取り組み

女性の活躍推進は、日本の持続的な経済成長と社会全体のウェルビーイング向上にとって不可欠な要素です。しかし、女性はキャリア形成において特有の課題に直面することが多く、健康面でのサポートとリーダーシップ機会の拡大が急務となっています。

女性のキャリアと心身の健康を支援するための「統合的ウェルビーイング・モデル」では、個人のセルフケア、組織レベルでの健康インテリジェンス指標の導入、そして社会レベルでの枠組み構築が提唱されています。特に、月経周期に合わせた「サイクル同期型ウェルネス」、適度な休息を取り入れる「アクティブ・レスト」、感情の柔軟性を高める「エモーショナル・アジリティ」、そしてAIチャットボットを活用した認知行動療法(CBT)といった具体的なアプローチは、女性特有の健康ニーズに対応し、キャリア継続を支援する上で有効です。これらの健康支援は、単なる一般的なウェルビーイング向上策に留まらず、女性がキャリアを中断することなく、その能力を最大限に発揮するための戦略的な手段と位置づけることができます。2025年に向けて、女性のリーダーシップ育成に本気で取り組む企業は、このような個別最適化された健康支援策を導入する可能性が高いです。

ある大手総合商社は、女性活躍推進法に基づく行動計画の中で、2025年または2031年までに役員に占める女性比率30パーセント以上、管理職における女性比率20パーセント以上といった具体的な数値目標を掲げています。同時に、海外での産休・育休取得支援や病児保育といったワークライフバランス支援策、リーダーシップ開発プログラムの提供など、多岐にわたる取り組みを推進しています。政府も、女性登用の加速化やL字カーブ問題(女性が育児期に正規雇用から離れ、その後非正規雇用に留まる傾向)への対応を政策目標として掲げています。

ある会議では、未来のヘルスケアが女性のエンパワーメントにどう貢献できるかが議論され、健康課題が男性よりも女性のキャリアに大きな影響を与える現状が指摘されました。

数値目標の設定は重要な一歩ですが、女性リーダーシップの持続的な育成には、それ以上の取り組みが求められます。従来の画一的なリーダー像を見直し、多様なリーダーシップスタイルを認め、育成する文化の醸成が不可欠です。ウェルビーイング支援は、女性が安心してリーダーシップの役割に挑戦し、それを継続できるようなインクルーシブな環境を整備する上での基盤となります。単に数を増やすだけでなく、女性がその能力を十分に発揮し、意思決定の場で活躍できるような、本質的な組織変革が求められているのです。

4.3 ミドル・シニア層の活性化:キャリア自律、リスキリング、持続的ウェルビーイングの促進

経験豊富なミドル・シニア層は、日本企業にとって貴重な人的資本ですが、その能力を最大限に活かし、ウェルビーイングを維持しながら活躍し続けるためには、新たなアプローチが必要とされています。キャリア自律の促進、時代の変化に対応するためのリスキリング、そしてセカンドキャリアやアンコールキャリアを見据えたウェルビーイング支援が鍵となります。

厚生労働省の委託事業である「いきいきキャリアプラン塾」は、中高年齢者を対象に、キャリアの振り返り、リスキリングの方向性検討、マネープランニング、多様なキャリアデザインといったテーマでセミナーやキャリアコンサルティングを提供し、セカンドキャリア形成を支援しています。これは、ミドル・シニア層が主体的に自身のキャリアを再構築し、変化に対応していくための具体的な支援策と言えるでしょう。

一方、ある調査によれば、企業が提供するキャリア支援とミドル・シニア層の社員が実際に感じている満足度の間には隔たりが存在します。企業側は支援に満足していると認識しているものの、社員側はキャリア相談の機会不足や社外交流・学びの機会の少なさ、新たな挑戦機会の限定といった不満を抱えています。特に、企業が若手育成を優先する傾向があり、ミドル・シニア層のキャリアサポートが後手に回りがちである実態も明らかになりました。この層の社員は、社内での役割維持に留まらず、自身のスキルアップ、社外ネットワークの構築、副業・兼業といったキャリアの幅を広げる機会を求めています。社外の視点を取り入れながらキャリア自律を促すプログラムも、こうしたニーズに応えるものです。

あるシンクタンクのレポートでも、「高齢化する人的資本」というトレンドが指摘されており、経験豊富な労働者を経済活動に留めることの重要性が増しています。日本政府も人的資本経営を推進しており、企業に対して人的資本に関する情報開示を求める動きが強まっています。また、約8割の企業がシニア人材の再雇用に前向きな姿勢を示しているというデータもあります。

これらの状況を踏まえると、2025年に向けたミドル・シニア層への支援は、単なる雇用延長や現状維持に留まらず、彼らの「再活性化(リエングゲージメント)」に焦点を当てる必要があります。多くのミドル・シニア層は、若手優先の風潮の中で自身のキャリア開発機会が限られていると感じており、新たなスキル習得や挑戦を通じて、これまでの経験を活かしつつ自己成長を続けたいという意欲を持っています。企業は、この層に対して、形式的な研修だけでなく、彼らの内発的動機に働きかけるような、実践的で挑戦的な学びの機会や、社外との交流を含む多様なキャリアパスを提供することが求められます。

生涯学習とウェルビーイングは、特に高齢化する労働力にとって密接に関連しています。リスキリングは、単に雇用可能性を維持するためだけでなく、知的な刺激を受け、社会とのつながりを持ち続け、自己効力感を高めるという点で、ミドル・シニア層のウェルビーイングに大きく貢献します。「いきいきキャリアプラン塾」のような取り組みは、キャリア開発と人生設計、ウェルビーイングを統合的に支援する好例と言えるでしょう。

4.4 セクター別考察:サービス産業の課題を例に

ウェルビーイングとキャリアデザインに関する課題やその解決策は、産業セクターによって大きく異なる様相を呈します。画一的なアプローチではなく、各セクター特有の労働環境や事業特性を踏まえた対応が求められます。

例えば、宿泊・飲食業といったサービス産業は、その労働集約的な性質から、特有の課題を抱えています。ある記事によれば、このセクターでは不規則な勤務時間や長時間労働が常態化しやすく、これが深刻な人材不足を引き起こす一因となっています。このような労働環境は、従業員の身体的・精神的ウェルビーイングを著しく損ない、キャリアの持続可能性を脅かします。2025年問題(団塊世代の後期高齢者入りに伴う社会構造の変化)による労働力不足が一層深刻化する中で、サービス産業における人材確保と定着は喫緊の課題です。

この課題に対する有効な対策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進とオペレーションの効率化が挙げられます。具体的には、配膳ロボットや清掃ロボットの導入による身体的負担の軽減、顧客管理システム(CRM)や予約システムの高度化による業務効率の向上などが考えられます。また、清掃業務のマニュアル化や工程見直しといったオペレーション改善も、無駄を削減し、従業員の負担を軽減する上で効果的です。

サービス産業におけるDXの推進は、単なるコスト削減や効率化に留まらず、従業員のウェルビーイング向上に直接的に貢献する可能性を秘めています。重労働や反復作業から解放されることで、従業員はより付加価値の高い業務や顧客とのコミュニケーションに時間を割くことができ、仕事のやりがいや満足度を高めることにつながります。これは、結果として同セクターにおけるキャリアの魅力を高め、人材の定着を促進する上で重要な意味を持ちます。

また、ウェルビーイングやワークエンゲージメントに関連する要因が業種によって異なるという調査結果は、セクターごとに特化したキャリアパスの設計が不可欠であることを示唆しています。例えば、ホスピタリティ産業におけるキャリアデザインは、技術職や事務職とは異なるスキルセットや価値観を重視する必要があるでしょう。2025年に向けて、各産業セクターは、自らの事業特性と労働市場の状況を深く分析し、そこで働く人々がウェルビーイングを維持しながらキャリアを築いていけるような、独自のキャリア支援策を構築していくことが求められます。

読者の皆様が所属する業界や組織で、ウェルビーイングとキャリアデザインをどのように推進できるか、考えるきっかけとなれば幸いです。

第5章 2025年に向けた枠組み、方法論、戦略的ツール

5.1 実践のための枠組み

ウェルビーイングキャリアデザインを組織や個人が実践していく上で、具体的な指針となる枠組みの活用が有効です。これらの枠組みは、抽象的な概念を具体的な行動に落とし込み、ウェルビーイング向上への取り組みを体系的に進めるための道しるべとなります。

代表的なものとして、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授が提唱する「幸せの4因子」フレームワークがあります。これは、「やってみよう因子(自己実現と成長)」「ありがとう因子(つながりと感謝)」「なんとかなる因子(前向きと楽観)」「ありのままに因子(独立と自分らしさ)」の四つの要素から構成され、これらをバランス良く満たすことが持続的な幸福感に繋がるとされます。ある企業研修では、このフレームワークを用いて、受講者が自身の幸福度を高め、それを日々の仕事や生活に応用するための具体的なワークが行われています。このフレームワークは、個人が主体的に自身のウェルビーイングと向き合い、キャリアの中でこれらの因子を意識的に育んでいくことを促します。これにより、ウェルビーイングの知識が一部の専門家だけでなく、一般の従業員にも広がり、各自がオーナーシップを持って取り組む文化の醸成が期待されます。

NTT R&Dと東京科学大学(旧東京工業大学)が共同開発した「Well-beingデザインフレームワーク」は、主に社会的なウェルビーイングに貢献するサービスや仕組みを創出するための方法論ですが、その根底にある「PACEマップ」(参加する、気づく、共創する、検討する)というプロセスは、組織内でのウェルビーイング施策やキャリア支援プログラムを設計する際にも応用可能です。このフレームワークは、関係者がそれぞれの価値観を理解し合い、調和の取れたアイデアを共創し、それを吟味・改善していくという反復的なプロセスを重視します。組織内のウェルビーイングキャリアデザインにこの考え方を適用すれば、従業員自身がプログラムの企画段階から参画し、多様なニーズや意見を反映させることで、より実効性の高い、当事者意識に根ざした取り組みが生まれるでしょう。2025年に向けては、このような共創的なアプローチが、従業員のエンゲージメントを高め、施策の受け入れやすさを向上させる上で重要となります。

また、女性のキャリアと心身の健康に特化した「統合的ウェルビーイング・モデル」は、個人、組織、社会という三つのレベルでの包括的なアプローチを提示しています。これは、特定の層に焦点を当てたウェルビーイング支援のあり方を示す好例であり、多様な従業員グループに対応した施策を検討する際の参考となります。

これらの枠組みは、ウェルビーイングキャリアデザインの「何をすべきか」だけでなく、「どのように進めるべきか」についての具体的な示唆を与えてくれます。組織は、これらのフレームワークを参考にしつつ、自社の状況や従業員の特性に合わせてカスタマイズし、実践していくことが求められます。

5.2 アセスメントおよび支援サービスの活用

ウェルビーイングキャリアデザインを効果的に推進するためには、現状を正確に把握し、課題を特定するためのアセスメントツールの活用と、専門的な支援サービスとの連携が不可欠です。しかしながら、多くの日本企業では依然としてウェルビーイングに関するアセスメントの実施率が低いという課題が指摘されています。

近年、従業員のウェルビーイング状態を多角的に測定・分析するための様々なアセスメントツールが開発・提供されています。例えば、「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」や「ラフールサーベイ」は、従業員のメンタルヘルス状態やストレスレベル、エンゲージメントなどを定期的に可視化し、個々の特性に合わせたアドバイス提供や組織改善に繋げることを目的としています。また、新卒採用向けの適性検査も、個人の性格特性や職務適性を把握する上で、ウェルビーイングな人員配置やキャリア開発の一助となります。これらのツールを活用することで、企業は客観的なデータに基づき、従業員のウェルビーイング課題を早期に発見し、より的確な対策を講じることが可能になります。2025年に向けては、単にデータを収集するだけでなく、その分析結果を個別のキャリア面談や育成計画、職場環境の改善といった具体的なアクションに結びつけることが、これらのツールの価値を最大限に引き出す鍵となります。アセスメント実施率の低さを克服し、データに基づいたウェルビーイング経営へと移行することが急務です。

さらに、企業向けのウェルビーイング支援サービスも多様化しています。「Happiness Planet Connect」は、ポジティブ心理学の知見に基づき、組織内の自然な交流を促進し、エンゲージメント向上を目指すアプリです。「Carely」は、健康診断結果やストレスチェック情報などを一元管理し、人事労務担当者の業務効率化と戦略的な健康経営を支援するシステムです。「FiNC for BUSINESS」は、従業員の健康情報に基づき、個別の健康改善プログラムやeラーニングを提供するプラットフォームです。これらのサービスは、健康管理、メンタルヘルスケア、コミュニケーション活性化、学習機会の提供といった多岐にわたる機能を提供し、企業のウェルビーイング施策を包括的にサポートします。

また、メンタルヘルス支援、エグゼクティブコーチング、チームビルディング、キャリアカウンセリングといった専門的なサービスを提供する企業もあり、組織と個人の両面からウェルビーイング向上を支援しています。

2025年に向けては、これらのアセスメントツールや支援サービスが、より統合されたプラットフォームとして提供される傾向が強まると予想されます。企業は、個別の課題に対応する断片的な解決策ではなく、データ収集・分析から具体的なプログラム提供、効果測定までを一貫してサポートする包括的なウェルビーイング解決策を求めるようになるでしょう。これにより、企業はウェルビーイング施策の運用負荷を軽減しつつ、より戦略的かつ効果的な取り組みを展開できるようになります。

5.3 2025年の主要イベントおよび学習機会

2025年には、ウェルビーイング、キャリアデザイン、人的資本経営といったテーマに焦点を当てた数多くの会議、セミナー、アワードが開催される予定であり、これらは業界の最新動向や先進事例を学び、専門家や実務家と交流するための貴重な機会となります。これらのイベントは、企業や個人が直面する課題への新たな視点や解決策を得る上で、重要な役割を果たすでしょう。

日本キャリア開発協会(JCDA)は、「ウェルビーイング経営とキャリア」といったテーマの特別セミナーや、キャリアカウンセリングに関するワークショップを2025年にも継続して開催する予定であり、キャリア支援の専門家にとって重要な学びの場となります。

あるメディア企業が主催する「人・組織・働き方イノベーションWeek 2025 夏」は、人的資本経営の成功戦略をテーマに、エンゲージメント向上、ウェルビーイング、DXを活用した人事戦略などについて、先進企業の事例を交えながら議論するオンラインフォーラムです。

学生のキャリア形成支援に関心のある人事担当者や教育関係者にとっては、「キャリアデザインカンファレンス2025」が注目されます。このイベントでは、学生にとって効果的なキャリアデザインプログラムや最新の学生動向、インターンシップのあり方などが議論されます。

ある大手人材サービス企業が主催する「はたらくWell-being AWARDS 2025」は、自己決定に基づき主体的にキャリアを形成し、ウェルビーイングを体現している個人や組織を表彰するものであり、具体的な成功事例から多くの示唆を得ることができます。

その他にも、障がい者を含むインクルーシブな人事に関するイベントや、女性のエンパワーメントとヘルスケアをテーマとする会議、ウェルビーイング関連の製品やサービスが一堂に会する展示会など、多様なイベントが予定されています。

これらの2025年に開催されるイベントのテーマは、人的資本経営、ウェルビーイングとキャリアの融合、ダイバーシティとインクルージョン、若年層のキャリアデザインといった、まさに本稿で議論されているマクロトレンドを反映しており、業界全体の関心事や優先課題がどこにあるかを示す指標と言えます。これらのフォーラムは、企業が抱える「何をすればよいかわからない」という課題に対し、具体的なノウハウや成功事例を共有し、実践的な解決策を見出すための重要なプラットフォームとなります。参加者は、最新の知見を得るだけでなく、他社の担当者や専門家とのネットワークを構築し、自社の取り組みを加速させるためのヒントを得ることができるでしょう。

これらの機会を活用し、ウェルビーイングとキャリアデザインに関する理解を深め、自社の戦略に活かしていくことが期待されます。

第6章 日本におけるウェルビーイングキャリアデザインの戦略的展望と提言(2025年以降)

6.1 統合された未来ビジョン:主体的かつ個別最適化されたウェルビーイングキャリアへ

2025年以降の日本におけるウェルビーイングキャリアデザインは、より個別化され、主体性を重んじ、そして生活と仕事が調和した統合的なアプローチへと進化していくことが展望されます。ウェルビーイングは、単なる福利厚生や努力目標ではなく、個人のキャリア戦略と組織文化の中核的な構成要素として認識されるようになるでしょう。ある調査が示す「労働の尊厳」の追求と、「自分軸の夢中」を仕事の中で実現しようとする動きは、この未来像を強く裏付けています。

個人が自らの価値観に基づき、主体的にキャリアを選択し、形成していく「自己決定」の重要性はますます高まります。企業や社会は、この自己決定を支援するための環境整備と機会提供に注力する必要があります。これには、継続的な学習と自己成長を促すリスキリングの機会提供、心理的資本(自己効力感、楽観性など)の醸成支援、そして変化への適応力を高めるためのサポートが含まれます。

テクノロジーは、この個別最適化されたウェルビーイングキャリアの実現を加速させるでしょう。AIを活用したキャリアカウンセリング、パーソナライズされた学習プログラム、ウェルビーイング状態のリアルタイムモニタリングといったツールは、個人が自身の状態を深く理解し、より適切なキャリア選択を行うための強力な助けとなります。

しかし、日本の労働市場における深刻なエンゲージメントの低さは、この未来ビジョン実現への大きな課題です。単に制度を整えるだけでなく、従業員一人ひとりが仕事への情熱や目的意識を持てるような、本質的な動機づけが不可欠となるでしょう。

政府の推進する「ウェルビーイングの高い社会」構築に向けた政策と、企業における「ウェルビーイング経営」の戦略的展開が両輪となって進むことで、個人が自らのキャリアを通じて真の幸福を追求できる社会の実現が期待されます。

6.2 全てのステークホルダーへの実行可能な提言

この未来ビジョンを実現するためには、企業、政策立案者、そして個人それぞれが果たすべき役割があります。

企業への提言:

  • ウェルビーイングを経営戦略の中核に据える: ウェルビーイングを人事部門だけの課題とせず、経営トップのコミットメントのもと、採用、育成、評価、組織文化、さらには事業戦略全体に統合します。リーダーシップが率先してウェルビーイングの重要性を発信し、具体的な行動で示すことが不可欠です。
  • 測定と分析への投資: 従業員のウェルビーイング状態やニーズを客観的に把握するためのアセスメントを導入し、そのデータを分析して施策の効果を検証します。これにより、投資対効果を明確化し、経営層の理解と継続的な投資を確保します。
  • 心理的安全性の高い文化と「つながり」の醸成: 日本の職場におけるエンゲージメントの低さや「職場に親友がいない」といった課題に対処するため、オープンなコミュニケーション、相互信頼、多様な意見が尊重される心理的安全性の高い職場環境を構築します。また、従業員同士が有意義な人間関係を築ける機会を意図的に創出します。
  • 個人のキャリア主体性のエンパワーメント: 「幸せの4因子」のようなフレームワークを活用し、従業員が自らのウェルビーイング、価値観、情熱に合致したキャリアを主体的に設計できるよう支援します。Z世代やミドル・シニア層のニーズに合わせたリスキリング機会や多様なキャリアパスを提供します。
  • ウェルビーイングリテラシーの高いリーダーの育成: 管理職に対し、部下のウェルビーイングを支援し、建設的なフィードバックを提供し、共感と創造性をもってチームを導くための研修とサポートを提供します。リーダー自身がウェルビーイングを体現することが重要です。

政策立案者への提言:

  • 国家戦略の継続的推進と進化: ウェルビーイングを国家の優先課題として位置づけ、関連政策を継続的に推進します。エビデンスに基づいた政策決定(EBPM)に基づき重要業績評価指標(KPI)を定期的に見直し、社会経済状況の変化に応じた支援策の改善を行います。
  • 知見共有とベストプラクティスの普及促進: 特に中小企業がウェルビーイング経営を導入する際の「何をすればよいかわからない」という課題を解消するため、成功事例や実践的なノウハウを共有するプラットフォームや支援プログラムを拡充します。
  • 研究開発とイノベーションの奨励: 日本の文脈における効果的なウェルビーイング介入策や、テクノロジーを活用した新しい支援方法に関する研究開発を奨励し、その成果の社会実装を支援します。
  • 構造的な障壁への対応: 質の高い保育サービスの提供、男女間の賃金格差是正、介護離職防止策など、職場のウェルビーイングに影響を与える社会システム全体の課題に引き続き取り組みます。

個人への提言:

  • 主体的なオーナーシップの発揮: 自身のウェルビーイングニーズとキャリア目標を深く理解するために、積極的に自己分析と内省を行います。他者任せにせず、自らのキャリアの主導権を握ります。
  • 自己決定能力の涵養: 仕事において自律性を高め、有能感を育み、他者との良好な関係性を築く努力をします。これらはウェルビーイングの源泉となります。
  • 生涯学習と適応力の重視: 変化の激しい時代において、継続的に新しい知識やスキルを習得し、変化に柔軟に対応できる適応力を養います。リスキリングはキャリアの選択肢を広げ、ウェルビーイングにも貢献します。
  • ウェルビーイングの擁護と共創: 自らがウェルビーイングを重視する職場環境を求めるとともに、所属する組織やチームのウェルビーイング向上に積極的に貢献します。建設的なフィードバックを通じて、より良い職場づくりに参加します。

6.3 結び:2025年の岐路 – 行動への呼びかけ

2025年は、日本がウェルビーイングキャリアデザインを、単なる流行や一部の先進的な取り組みから、経済社会システムの根幹をなす普遍的な価値へと昇華させるための、極めて重要な岐路に立っています。これまでの分析が示すように、個人の幸福とキャリアの充実、そして組織の持続的成長と社会全体の活力は、もはや切り離して考えることはできません。

この転換を成功させるためには、企業、政策立案者、そして個人という全ての関係者が、それぞれの立場で責任を果たし、協調して行動を起こすことが不可欠です。仕事が人生を豊かにし、人生が仕事を充実させる。そのような未来の実現は、私たち一人ひとりの選択と行動にかかっています。2025年を、その確かな一歩を踏み出す年とすべく、具体的な行動を開始する時です。

この記事が、皆様のウェルビーイングとキャリアデザインに関する取り組みの一助となれば幸いです。

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この記事を書いた人

謙虚な記事を書くライターです。

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