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【顧客アンケートの罠】なぜ「欲しい」と言ったのに買わないのか?『ジョブ理論』に学ぶ、絶対に売れる商品の作り方

「事前の顧客アンケートでは『この機能があれば絶対に買う』という声が圧倒的に多かったから、開発費をかけて実装したのに、いざ発売してみたら全く売れない」
「ターゲットは『30代、都内在住の独身女性、年収500万円』とペルソナを完璧に設定し、彼女たちが好みそうなデザインとスペックを追求したのに、なぜか競合の安い商品に顧客を奪われてしまう」

もしあなたが商品開発やマーケティングの現場で、このような「データ通りに作ったのに売れない」という理不尽な壁にぶつかり、絶望しているなら。そして、「顧客のニーズが多様化していて、もはや何を作ればヒットするのか全く分からない」と頭を抱えているなら。
その原因は、あなたの会社の技術力が足りないからでも、競合の資金力が強すぎるからでもありません。
最大の原因は、あなたが「顧客の『声(アンケート結果)』と『属性(年齢や性別)』という、ビジネスにおいて最も当てにならないゴミデータ」をベースにして商品を作ってしまっているからです。

顧客に「どんな商品が欲しいですか?」と直接聞き、その答え通りに新機能を追加していく。一見すると非常に誠実で正しいアプローチに見えます。しかし、かの有名なヘンリー・フォード(自動車の生みの親)が残した「もし顧客に何が欲しいかと聞いていたら、『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉が示す通り、顧客は自分自身が本当に解決したい「根源的な悩み」を言語化することができません。

では、属性データも顧客のアンケートも信じられないのであれば、私たちは一体何を基準に商品を作れば、「絶対に売れる(ヒットする)」確信を得ることができるのでしょうか?

その究極の答えを提示し、世界のビジネス史を塗り替えた「イノベーションの神様」が存在します。
ハーバード・ビジネス・スクールの伝説的な教授であり、『イノベーションのジレンマ』の著者でもある故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した、最強のマーケティング・フレームワーク『ジョブ理論(Jobs to be Done)』です。

本記事では、「顧客が商品を買う本当の理由」を根底から覆し、スペック競争や不毛な価格競争から企業を完全に解放するこの『ジョブ理論』の核心について、圧倒的なボリュームと独自の図解比較を交えながら徹底的に解剖していきます。最後まで読み終えた時、あなたが「顧客」や「商品」を見る解像度は劇的に上がり、明日からの企画書の書き方が根本から変わっているはずです。

目次

1. 顧客は「商品」を買っているのではない。用事を片付けるために「雇用(ハイア)」している

ジョブ理論の最も強力で革新的なポイントは、顧客の購買行動を「モノを買う」という視点から完全に切り離したことにあります。

クリステンセン教授はこう断言しています。
「顧客は、あなたの商品そのものが欲しくて買っているわけではない。彼らの人生に発生した特定の『片付けるべき用事(ジョブ)』を解決するために、あなたの商品を一時的に『雇用(ハイア)』しているだけだ」

私たちがドリルを買うのは「ドリルという鉄の塊」が欲しいからではなく、「壁に穴を開ける」という用事(ジョブ)を片付けるためにドリルを雇っているに過ぎません。もし、壁に一切傷をつけずに強力に物を固定できる魔法のテープが発明されれば、ドリルは即座に「解雇(クビ)」にされます。顧客はドリルに何の未練もありません。

しかし、多くの企業はこの残酷な真実から目を背け、「どうすればもっと回転数の速いドリルが作れるか」「どうすればもっと軽いドリルになるか」という、機能(スペック)の向上ばかりに目を向けてしまいます。だから、ある日突然全く別の業界から現れた「魔法のテープ(新しい解決策)」に、一瞬で市場を奪われてしまうのです。

伝説の「ミルクシェイクの謎」

このジョブ理論の威力を説明する上で、世界で最も有名で、かつ最も本質を突いている「ミルクシェイクの事例」をご紹介します。

ある大手ファーストフードチェーンが、「ミルクシェイクの売上を伸ばす」というプロジェクトを立ち上げました。
彼らはまず、従来のマーケティング手法に従い、「ミルクシェイクをよく買う顧客層(ペルソナ)」を徹底的に分析しました。そして、その層に該当する人々を集めてグループインタビュー(アンケート)を行いました。
「もっとドロッとしていた方が好きですか?」「チョコレート味を濃くした方が良いですか?」「値段を下げた方が買いますか?」

顧客の声を元に、彼らは「より濃厚で、フルーツの味がしっかりするミルクシェイク」を開発し、大々的に発売しました。
しかし、結果はどうだったでしょうか。売上は1ミリも上がりませんでした。

途方に暮れたプロジェクトチームに呼ばれたのが、クリステンセン教授のチームでした。彼らは、顧客の年齢や性別、アンケートの回答などの「属性データ」をすべてゴミ箱に捨てました。その代わりに行ったのは、「店舗に1日中立ち尽くし、ミルクシェイクが『いつ、どんな状況で、どんな行動と一緒に』買われているのかをひたすら観察すること」でした。

すると、非常に奇妙なデータが浮かび上がってきました。
ミルクシェイクの売上のなんと40%以上が、「朝の8時前」に集中していたのです。しかも、買っていくのは常に「一人で来店したスーツ姿の男性」であり、彼らは他のメニュー(ハンバーガーなど)は一切買わず、ミルクシェイクだけを買い、すぐに車に乗り込んで走り去っていくという共通点がありました。

教授のチームは、翌朝、店から出てきたスーツ姿の男性たちを捕まえて、こう質問しました。
「失礼ですが、あなたは今朝、どんな『用事(ジョブ)』を片付けるために、このミルクシェイクを『雇用』したのですか?」

彼らの答えは、驚くべきものでした。
「これから会社まで長くて退屈なドライブ(通勤)が待っているんだ。その間、眠気を覚まし、退屈を紛らわせてくれる『相棒』が必要だった。さらに、10時頃にお腹が空かないように、腹持ちの良いものが欲しかったんだよ」

真の競合は「別のミルクシェイク」ではなかった

この瞬間、ミルクシェイクが解決すべき「本当のジョブ」が完全に明らかになりました。
ジョブは「甘いスイーツを味わいたい」などではありません。「退屈で長い通勤ドライブを紛らわし、午前中の空腹を満たしたい」という極めて実用的な用事だったのです。

彼らはこれまで、このジョブを片付けるために様々なものを「雇用」して失敗してきました。
バナナを雇用した時は、一瞬で食べ終わってしまい退屈を紛らわせられませんでした。
ドーナツを雇用した時は、手がベタベタになり、スーツに粉が落ちて運転中にイライラしました。
しかし、ミルクシェイクはどうでしょうか?ストローで吸うのに時間がかかるため、20分間のドライブ中ずっと長持ちします。片手で運転しながら飲め、スーツも汚れません。腹持ちも抜群です。通勤ドライバーにとって、ミルクシェイクは「完璧にジョブをこなしてくれる最高の従業員」だったのです。

つまり、ミルクシェイクの真の競合相手(ライバル)は、他社のミルクシェイクではありませんでした。「バナナ」や「ドーナツ」や「スニッカーズ」が本当の競合だったのです。
ここに至って、ファーストフードチェーンが最初に打った「より濃厚でフルーツ味にする」という施策が、いかに見当違いであったかが分かります。ドライバーたちは「味の良さ」など求めていなかったからです。

本当のジョブを知った同社が次に打つべき手は明確でした。
「ストローをさらに細くして、飲み終わるまでの時間を長くする(退屈しのぎの時間を延ばす)」「果肉のチャンク(塊)を混ぜて、吸い上げる時に予想外の食感を与え、眠気を覚ます」「急いでいる彼らのために、レジに並ばずプリペイドカードで一瞬で買える専用の自販機をドライブスルーに設置する」

これこそが、顧客の「声」ではなく「ジョブ」にフォーカスすることで生まれる、絶対に外さないイノベーションの正体です。
次章では、この「ジョブ」を自社のビジネスに当てはめるための具体的なアプローチを、従来のマーケティング手法との残酷なまでの「比較図解」を通じてさらに深く解剖していきます。

2. 【図解】「属性・アンケート頼り」と「ジョブ理論」の残酷なまでの違い

ミルクシェイクの事例で見たように、顧客の「年齢・性別(デモグラフィック属性)」や「アンケートで答えた要望」は、イノベーションを起こす上ではほとんど役に立ちません。なぜなら、「30代の独身男性だから」という属性がミルクシェイクを買わせたわけではなく、「通勤中の退屈を紛らわせたい」というジョブ(状況)こそが購買の真の引き金だからです。

従来の「属性や機能」に依存するマーケティングと、「ジョブ(片付けるべき用事)」にフォーカスするジョブ理論とで、商品開発のアプローチがどのように劇的に変わるのかを図解で比較してみましょう。

比較項目 従来のマーケティング(失敗例) ジョブ理論(イノベーションの成功例)
顧客の捉え方(ターゲット) 【属性で分類する】
「30代、年収500万、都内勤務の男性」というペルソナを作り、彼らが好みそうなデザインや機能を想像する。
【状況(文脈)で分類する】
「朝の渋滞で退屈しており、片手しか空いていない状況の人間」という、特定のジョブが発生している瞬間をターゲットにする。(この状況なら20代女性でも60代男性でも同じ顧客となる)
競合他社の設定 【同業他社の製品】
ミルクシェイクを売るなら、マクドナルドやロッテリアのミルクシェイクがライバルだと信じ込み、味や価格で勝負する。
【同じジョブを解決するすべてのモノ】
「退屈しのぎ」というジョブにおいて、バナナ、ドーナツ、スニッカーズ、さらには「ラジオ」や「スマホの音声アプリ」までもが真の競合となる。
商品開発のアプローチ 【機能の足し算】
アンケートで「もっと甘くして」と言われれば甘くし、「大盛りが欲しい」と言われれば量を増やす。(結果、誰もいらない多機能な化け物が完成する)
【ジョブの完全な解決】
「退屈をより長く紛らわせるために、ストローを細くして吸いづらくする」「レジに並ぶ時間をゼロにする」など、ジョブの達成を阻害する要因を徹底的に取り除く。
BtoBにおける応用例
(社内チャットツール)
「競合ツールにはタスク管理機能があるから、うちも急いで開発しよう」「スタンプの種類を増やせば他社に勝てるはずだ」とスペック競争に陥る。 顧客の本当のジョブは「社内の無駄な会議を減らして、早く家に帰りたい」ことだと気づき、機能競争をやめ、「会議削減コンサルティング」をツールとセットで売り出す。

ジョブには「社会的・感情的な側面」が必ず隠れている

ジョブ理論を実践する上で、多くの人がつまづくポイントがあります。それは、ジョブを「機能的(物理的)な用事」だけで捉えてしまうことです。

例えば、あなたが「高級なスイス製の腕時計(ロレックスなど)」を買う人のジョブを想像してみてください。
もしジョブが「現在の正確な時間を知りたい」という機能的な用事だけであれば、誰も何百万円もする機械式時計など雇いません。数千円のデジタル時計や、スマホの画面を見る方が圧倒的に正確だからです。

彼らが高級時計を数百万払って「雇用」する本当の理由は、機能的な用事ではありません。
「取引先に『成功している人間だ』と舐められないように見せたい(社会的ジョブ)」
あるいは、
「自分のこれまでの努力を証明し、自分自身に誇りを持ちたい(感情的ジョブ)」
という、目に見えない強烈な用事を片付けるためなのです。

クリステンセン教授は、「すべてのジョブは、機能面、社会面、感情面の3つの次元が複雑に絡み合っている」と指摘しています。特に、高くても飛ぶように売れる大ヒット商品は、例外なくこの「社会的・感情的なジョブ」を完璧に片付けています。

あなたの会社の商品が価格競争(機能的なジョブの叩き合い)に巻き込まれているのだとしたら、それは顧客の「感情」や「社会的な見え方」に関するジョブを完全に無視しているからです。顧客が本当に求めているのは「穴を開けるドリル」ではなく、「美しい棚を自作して、家族から『お父さんすごい!』と尊敬されること(感情的・社会的ジョブ)」かもしれないのです。

3. 真の「ジョブ」を発見するためのたった一つの方法

ここまで読んで、「自分のビジネスにおける本当のジョブを見つけたい」と強く感じたはずです。
では、どうすれば顧客自身も気づいていない、言語化できない深いジョブ(感情的・社会的ジョブを含む)を見つけ出すことができるのでしょうか。

結論から言えば、方法はたった一つしかありません。
「顧客の『声(言葉)』を一切信じるな。顧客の『実際の行動』だけをストーカーのように徹底的に観察しろ」ということです。

人間は嘘をつきます。アンケートで「環境に優しい車が欲しいですか?」と聞かれれば、ほぼ100%の人が「はい」と答えます。しかし、実際に彼らが大金を払って買うのは、環境に悪いド派手な大型SUVだったりします。
だからこそ、クリステンセン教授のチームはミルクシェイクの顧客にアンケートを取るのをやめ、店舗の隅で彼らが「いつ、どうやって、どんな行動をとって」買っていくのかを何十時間も観察し続けたのです。

顧客が「何かをクビ(解雇)にした瞬間」を見逃すな

特に行動を観察する上で、最も強烈なジョブのヒントが隠されている瞬間があります。
それは、顧客がこれまで使っていた商品を「解雇(クビ)にし、あなたの商品を新しく雇用(ハイア)した瞬間」です。

人が長年慣れ親しんだ古い習慣(商品)を捨てて、わざわざ見知らぬ新しい商品を使い始めるには、膨大なエネルギー(スイッチングコスト)が必要です。それにも関わらず、彼らが古い商品を「クビ」にしたということは、そこに「どうしても解決できない強烈な不満(未解決のジョブ)」が存在していた決定的な証拠なのです。

あなたの商品を買ってくれた顧客に、絶対に聞くべき質問は「なぜ買ってくれたのですか?」ではありません。
「うちの商品を買う直前まで、あなたは何を使って(どんな代替手段で)その用事を済ませていましたか?そして、その手段のどこに『限界』を感じて、それをクビにしたのですか?」
これこそが、ジョブ理論において最も価値のある、イノベーションの源泉となる質問です。

4. 【まとめ】「何を作るか」ではなく「何の用事を片付けるか」

今回は、イノベーションの神様と呼ばれるクレイトン・クリステンセン教授の『ジョブ理論』について、ミルクシェイクの事例を中心にお届けしました。

ビジネスの世界では、毎日星の数ほど新商品が生まれ、そしてその9割が誰にも知られることなく消えていきます。消えていった商品の開発者たちは、決してサボっていたわけではありません。皆、真面目に市場調査を行い、競合のスペックを分析し、より多機能で安いものを作ろうと血の滲むような努力をしていました。

しかし、彼らは決定的な間違いを犯していました。「顧客の人生に発生している本当の用事(ジョブ)」を見ず、「自分たちの製品の機能」ばかりを見てしまっていたのです。

もしあなたが今、新しい商品やサービスを企画している、あるいは既存の商品の売れ行きが止まって悩んでいるなら、一度立ち止まって、自分自身にこう問いかけてみてください。
「顧客は、自分の人生のどんな面倒な用事(ジョブ)を片付けるために、わざわざお金を払ってうちの商品を『雇用』してくれるのだろうか?」

その問いの答え(真のジョブ)が見つかった時、あなたが戦うべき本当の競合相手が誰なのかが明確になります。そして、競合のスペックを真似て機能を足し算するような不毛な競争から完全に抜け出し、「顧客の用事を完璧に終わらせる」という全く新しいイノベーションの滑走路に立つことができるはずです。

実際の書籍には、この記事で紹介したミルクシェイクの事例以外にも、BtoBソフトウェア、医療、さらには「教育」という複雑な分野に至るまで、世界中のあらゆるビジネスにおけるジョブの発見プロセスが、まるで上質な推理ミステリー小説のようにスリリングに描かれています。

「良いものを作れば売れるはずだ」という呪縛に囚われ、先の見えないスペック競争に疲弊しているすべてのビジネスパーソンにとって、本書は暗闇を照らす最強の羅針盤となるはずです。

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